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《掃射攻撃》(TP消費3)[白、黒、犬、兎、ツ、砲] 『連射』可能な射撃武器でのみ使用可能。 攻撃時に通常の数倍の弾薬を発射・消耗し、【命中修正】を向上させる。 消費する弾薬の量によって、【命中・威力】が変動する。 また使用した次のターン【IV-5】される。 【消費弾薬/命中補正/威力】 2 / +1 /+0 4 / +2 /+0 6 / +3 /+1 8 / +4 /+1 10 / +5 /+2 《全弾発射》(TP消費3)[全神姫] 『ミサイル・ショルダーミサイル』のみ使用可能。 攻撃時に任意のミサイルを全て発射し【命中修正】を向上させる。 残存していたミサイルの数によって、【命中・威力】が変動する。 また使用した次のターン【IV-5】される。 【消費弾薬/命中補正/威力】 2~3 / +1 /+0 4~5 / +2 /+0 6~7 / +3 /+1 8~9 / +4 /+1 10 / +5 /+2 《ツインアタック》(TP消費2) [黒、犬、猫、騎、武] 格闘攻撃専用技能。仲間と連携して格闘攻撃を仕掛ける。 ラウンドの開始時に仲間の神姫1人と一緒に《ツインアタック》を宣言すること。 一緒に攻撃を行う神姫はイニシアティブ値を決定せず、この技能の持ち主と一緒に行動する。 《ツインアタック》を成立させる為には、両者が同一目標に格闘攻撃を仕掛けなければならない。 双方の神姫とも【攻撃判定+5】される。 尚、ツインアタックのパートナーはこの技能を必要としない。 《対空攻撃》(TP消費2)[黒、犬、猫、騎、武、花、種] 《飛行》している相手への有効な格闘戦術を持つ。 目標の《飛行回避ボーナス》を無効化する。 《零距離射撃》(TP消費3)[全神姫] ミサイル関連以外の射撃武器で、射程1の時のみ使用可能。 射撃値に【格闘値÷2(切捨て)】を加えることが出来る。 使用後、次の自分のターンまで【回避-5】の修正を受ける。 《バッシュ》(TP消費3) [黒、猫、騎、武、花] 自分のターン開始時に《バッシュ》をするかどうかを選択できる。 選択した場合次の自分のターンが始まるまで【格闘威力+2】の修正を受ける。 尚、他の【格闘威力】が上昇する技能との併用は行えない。 《見切り》(TP消費3) [黒、猫、騎、武、花] 自分のターン開始時に《見切り》をするかどうかを選択できる。 選択した場合次の自分のターンが始まるまで【攻撃判定+5】の修正を受ける。 尚、他の【攻撃判定】が上昇する技能との併用は行えない。 《百花繚乱》(TP消費6)[黒、猫、騎、武、花] 自分のターン開始時に《百花繚乱》をするかどうかを選択できる。 選択した場合自分のターンが始まるまで【攻撃判定+10】及び【格闘威力+4】の修正を受けるが、【防御判定-20】の修正を受ける。 尚、他の【攻撃/格闘/判定】が上昇する技能との併用は行えない。 《直感》(TP消費3)[全神姫] 防御判定時に使用すると、【回避】(+5)の判定を得られる。 《狙撃》(TP消費3) [白、犬、兎、ツ、砲] 宣言したターンは移動不能。一回の射撃に関して、距離11~15での射撃なら【命中+5】、距離16~20の射撃なら【命中+10】の修正値を得る。 その代わり次のターンに【IV-5】の修正を受ける。 《指揮官》[全神姫] 《フォーメーション技能》使用時のTPが【-1】される。 《奇襲》(TP消費3)[黒、猫、兎、騎、武、花] IVフェイズに宣言。宣言するとそのターン【IV+10】される。 《奇襲》を宣言したターンでは、格闘武器しか使用できない。 《クイックドロー》(TP消費3)[白、黒、犬、兎] IVフェイズに宣言。宣言するとそのターン【IV+10】される。 《クイックドロー》を宣言したターンでは、【ハンドガン】分類の武器しか使用できない。 《GAアーム》[全神姫] 特殊な武装である、GAアームに関して習熟する。 GAアームに関する【判定】(+5) 《ぷちマスィーンズ》[全神姫] 特殊武装である『ぷちマスィーンズ』を使役する能力を得る。 この技能が無ければ『ぷちマスィーンズ』は使用不能。 《飛行特性》[全神姫] [全神姫] 飛行時に発生するペナルティを軽減する。 【命中修正(5)軽減】、【旋回修正(1)軽減】、【バックの消費(1)軽減】
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『マッドサイエンキャット』-1/3 ※ 念のための注意書き ※ 第二章でも同じ注意書きをしましたが、インダストリアル・エデン社製神姫をご存知ない方はおりますまい。 ◆――――◆ バトルをするわけでも、他に用事があるわけでもなく、私はオンラインの茶室を借りることがあった。 月に一度か二度、お金はかからない。 静穏な雰囲気を壊さない程度の和風にしつらえられた四畳半で、ただ時間の過ぎるままにまかせる。 ちゃぶ台を部屋の隅によせて、部屋の中心に仰向けに寝転がって、小窓から、あるいは壁を伝って聞こえてくる自然の音に耳を澄ませる。 竹林を撫でるように流れる風に揺れる音。 絶え間なく水が溢れる池では時々、魚が跳ねた。 私の知る限りここは、最も贅沢に時間を使うことのできる場所だった。 勿論、ここはディジタル信号によって作られた場所であり、本物の自然とは真逆の存在であると言ってもいい。 小窓からは確かにあるがままの自然を見つけることができるが、簡素な戸を開いた先に通じているのは、銃弾飛び交うバトルステージか、もしくはクレイドルに横になっている自分の体だ。 それでも、私を含めたすべてを電子データで作られたこの場所を、私は独占したくなるくらいには気に入っていた。 だから、 「失礼する。我は『清水研究室 室長兼第一デスク長』ゴクラクだ。ふむ? セイブドマイスター殿は休養中であったか。邪魔をしてしまい申し訳ない」 招待した覚えのない奴が戸を開けて踏み込んできて、ましてそいつが顔見知りでなく、さらに清水研究室の関係者とあっては、安らかだったところから堪忍袋の緒が切れるところまで一瞬で到達するのも仕方のないことだった。 機関砲を具現化し(茶室を予約する際のアカウントがバトル用だから、武装も一緒に登録される)マズルの火花が直接当たる至近距離で一発ぶっ放した。 しかしこの侵入者は部屋に入ってきた姿勢のまま右に『ずれた』。 ずれた、という言葉が適切かどうなのか分からないが、少なくとも私には信号機の黄信号が赤信号に変わるように、一瞬の間にこいつの立ち位置が変わったように見えた。 腰まで届くほど長く、羊毛のような癖がある灰色の髪は戸から入ってきた時のまま、少しも揺れ動いていない。 髪は早く動けば動くほど頭に置いていかれるようになびくはずなのに。 弾丸とマズルから出た火花のどちらも侵入者の横を通り過ぎ、戸の向こうへと消えていった。 「そう邪険にされるな。今日は戦いに来たのではない」 しかも全然動揺してない。 見たこともない型式の神姫は戸を閉め、隅にあったちゃぶ台を部屋の真中に置いて、どっかりと胡座をかいた。 「これはつまらぬものだが」とちゃぶ台の上に出された草色の包を私は無視して、ふてぶてしい神姫を観察した。 切れ長の目の奥で、金色の瞳が私をサーチするように怪しく光っている。 無言のうちに試されているような不快感が肌にまとわりついた。 私にはその金色が、濁って濁って濁り切った果てにできた色のように思えてならなかった。 まだ出会って間もないにもかかわらず、こいつは私程度では手に負えないことを直感で理解してしまった。 油断すれば腰が抜けそうになるのを、相手には見えないように必死にこらえなければならなかった。 もし畳の上にへたり込んでしまったら、私は恐らく、この型式すら分からない神姫に屈服してしまう。 戦闘力は疑う余地もなく普通の神姫の枠で測れないレベルにあるだろう。 しかしこの神姫は強さ以上に危険な何かを隠している。 ゴクラク(極楽)なんてものが本当あるとしたら、恐らくこいつが歩く道とは逆方向にあることだろう。 少しでも目をそらそうと、シルエットを全体的に眺め回した。 まず目に入ったのは額からそそり立つ、太くて硬そうな黒い角。 神姫が頭にとんがったものを立てるのは珍しいことではない。 カブトムシやらクワガタなどの神姫は当然のこと、私にだってうさぎのような耳がある。 でもこいつの角は私達の飾りやセンサー、アンテナとは違う、正しい意味での角だと感じた。 威嚇するため、あるいは貫くため。 ポケモンじゃあるまいし、まさか本当に主武装ではないのだろうけど、それだけの威圧感があった。 角の次に目に入ったのは、顎の先端から真っ直ぐ下に降りた先にある肌の谷間だった。 谷間に何かを差し込めば力を入れることなく挟めてしまいそうだった。 盛ってやがる。 ムカつく。 腕や足、首元、カーディガンはすべて緑の濃淡で描かれた迷彩柄で統一されている。 密林に飛び込む気満々であるようだが、ボリューム過剰の髪と誇張されまくっている胸元を見れば、どんな場所であっても小賢しく隠れることを良しとしない性分であることが分かる。 関わる気になれず、できることならゴクラクを無視して茶室から出ていきたかった。 しかしゴクラクには、有無を言わせない雰囲気があった。 「一躍有名になられたセイブドマイスター殿と話がしたかったのだ。唐突な訪問であったことはご容赦願いたい」 「私がこの場所にいることは誰も知らないはずよ。どうやって潜り込んだのかしら」 これには答えず、ゴクラクは話を続けた。 「先日の一戦はさすがだった。強者を相手取っても冷静に策を巡らせ勝利してしまうとは、凡百の神姫にできることではない。我が研究室の者共にも見習わせたいものだ」 「ふん、いくら褒めたって私が清水研究室に出すものなんて何もないわよ。あんた室長だって?」 「そうだ」 「なら部下のしつけくらいちゃんとしなさいよ。ギンが節操無く勧誘し回ってるのは研究室の方針?」 「失敗を表に晒してしまったのは研究室として手痛いことだ。ギンの武装がジョーカーのようなものであることはご存知であろう。『大魔法少女』を引き入れることができれば儲けもの、程度に考えていたのだがな」 芽のない欲を出してしまった、と言うゴクラク。 しかしこいつの表情から後悔する気持ちは欠片も読み取れなかった。 すべての感情が瞳の金色の中に混ぜられ、押し殺されているようだった。 「我が清水研究室は強い神姫を求めている。今は第七デスクまで【それなり】の神姫を揃えたつもりだが、まだ不足している。我に匹敵するレベルとまではいかずとも、そうだな、少なくともギン程度の神姫をあと数体は揃えたい」 ギン程度。 その言葉を聞いた私は心を揺らさずにはいられなかった。 「何と戦ってんのよアンタは。世界大会の賞金でも狙ってんの?」 ゴクラクは答えなかった。 まあ、こいつらの目的なんて興味無い。 本当に賞金目当てなら、私の知らないところでどうぞご自由に荒稼ぎしてくださいって感じだ(目の前の神姫がお金なんて俗なものに興味を持つとは思えないけど)。 気になったのは、清水研究室が第七デスクまであるということと、ゴクラクがギンをずいぶん格下に見ているってことだ。 ちゃぶ台を挟んでゴクラクと向かい合うように、私も座った。 セイブドマイスターは具現化したまま傍に置いた。 ゴクラクが持ってきた包の中身が少しだけ気になった。 「第七デスクまであるってことは、他のデスク長もギンみたいに勧誘して回ってんの?」 「そうだ。しかし我は『強い神姫を集めよ』としか命令していない。収集対象と手段は各々に任せてある」 七という数字にいや~な予感がする。 私が目下挑戦中の人間になるための勝利ノルマが七人。 清水研究室のデスク長も七人。 アリベは清水研とは無関係だし、次の対戦相手はマオチャオのリーダーともう決まっているらしいけど、残り四人の中に清水研の連中が含まれないとは限らない。 いや、あのひねくれた神様のことだし、絶対にあと一人くらいは入ってくる。 そのあと一人の最有力候補は今、目の前に座っている。 改めてゴクラクの姿を見た。 刺さると痛そうな額の角、肩幅よりも大きく膨らんだ灰色の髪、無駄にミリタリー仕様の服、そして金色の両眼。 この神姫を相手にして、私に勝つ可能性はあるのだろうか。 「もう一つ質問。あんたの型式は?」 「インダストリアル・エデン社製犀型MMSディアドラ。飛鳥型とは比較にもならないマイナー神姫だ。しかしその性能、特に我の強さはそこそこだと自負している。今日はセイブドマイスター殿に我の能力を伝えるために来た」 「なっ、何よいきなり。教えてって頼んだ覚えはないわよ」 「ディアドラは元来、重火器による制圧を得意としている」 ゴクラクは勝手に話しはじめた。 「しかし我は室長であるが故に雑務が多く、ペンより重い物を持たぬものでな、セイブドマイスター殿が愛用されるような重火器は勿論のこと、ハンドガンのような小型武器であっても携帯するのは億劫だ。武装は最小限まで減らしたい。ところでセイブドマイスター殿は【共振】という現象をご存知か?」 「共振? 共鳴みたいなもの?」 「そうだ。あるシステムにそのシステムの固有振動数で力を加えると、その振動は増幅される。振り子を想像するといい。一定の間隔で押してやれば振れ幅は増幅するだろう。その時の間隔が固有振動数であり、この現象を共振という」 さすが研究室にいるだけのことあって、小難しい理屈を出してきた。 たとえ話で分かりやすく説明しようとしてんのは分かるけど、私のような一般人は専門的な単語を出されるだけで思考回路をフリーズさせてしまうことをゴクラクは知るべきだ。 振り子とか言われても、それを思い浮かべるのに数秒かかってしまうわけで。 「乱暴な言い方をすれば共振とは力の乗法だ。物の思わぬ破損を招く厄介なものだが、我はそれを武器として扱う術を持っている」 「ふ、ふうん」 私はたぶん、すごく重要な情報を聞かされている。 自ら戦術の情報を公開するなんて「バトルでカモにしてください」って言ってるようなもので、そうでなければジャンケンで「私はチョキを出す」と宣言するくらい程度の低い揺さぶりだ。 でも私にはゴクラクの言っていることに嘘はないという確信があった。 にもかかわらず、ゴクラクの短い説明を半分以上聞き流してしまった。 だって難しいんだもん。 【共鳴】を武器にする(あれ? 共振だったけ?)ということは分かった。 でも共鳴を具体的にどうするのかサッパリ分からない。 他には……そう、振り子がどうとか言ってた。 じゃあゴクラクの武装は振り子なのか。 振り子でできることなんて、「あなたはだんだん眠くな~る」の催眠術しか思いつかない。 つまりゴクラクの技は催眠術――いやいや共鳴はどこ行った。 どうしよう、もう一度説明を頼んでみようか。 聞かぬは一生の恥って言うし、清水研の神姫を相手に恥かいたって別になんとも思わないし。 よし、聞こう。 見下されるかもしれないけど、それならそれで早々にお帰り願えばいいじゃない。 さあ聞けセイブドマイスターホノカ。 素直な心でお願いするんだ。 「……で、どうして私にあんたの情報を?」 だめだった。 飛鳥型ホノカさんはちっぽけなプライドと引き換えに重要な情報を逃した。 「ほう、ご理解頂けなかったようだがご質問は無しか。さすがはセイブドマイスター殿、潔くて助かる」 しかも理解してないことがバレてた。 自分の顔がみるみる赤くなっていくのを感じた。 魔法少女になった時くらいの恥ずかしさと自殺願望を抱えきれず、機関砲を再度手に取り弾の限りぶっ放した。 部屋中に何度も炸裂音が反響し、備え付けの調度品が被弾した箇所からひしゃげていく。 ちゃぶ台の上にあった包の中身は一口サイズのヂェリ缶詰合せだったらしく、弾が当たってヂェリ缶が弾け飛んだ。 破片が部屋中に舞って、トリガーを引いても弾が出なくなった頃にはあらかたの物を壊し尽くしていた。 全弾避けきったゴクラクを除いて。 「錯乱されるな。涙が出ているぞセイブドマイスター殿」 「じゃかあしいっ! さっさと答えなさいよ、なんで私に能力ばらしたっ! ええ!? 私を嘲笑うためか! 小難しいこと言いやがってインテリぶりやがってえっ!」 「違う。我が戦闘スタイルを開示したのは、セイブドマイスター殿の信頼を得るためだ。我はセイブドマイスター殿を我が研究室の第一デスク長に――」 「出てけ! 二度と来んな! 次そのツラ見せたら額の角と尻の穴を連結しちゃるかんね!」 「やれやれ、曲がりなりにも『大魔法少女』と肩を並べる御身であろうに。まあよい、一度の謁見で心が掴めるとは思っていない。今日のところは挨拶にとどめておこう」 そう言うとゴクラクは穴が空いて歪んだ戸を強引に、しかし力を込めた感じもなく開けて外に出た。 「そうだ、もう一つ」 いかにも【今思い出したという演技をした風に】ゴクラクは足を止めてこちらを向いた。 「我が研究室の第六、第七デスクの者らが近いうちにセイブドマイスター殿を訪ねると言っていた。その時はよろしくご相手願いたい」 返事の代わりに機関砲を投げつけた。 ゴクラクはここに来た時のように瞬きの間にその場から姿を消し、今度はどこにも現れることはなかった。 ◆――――◆ 「『清水研究室 第六デスク長』クロカゲ」「並びに『第七デスク長』シロカゲ参上!」 今ほど不愉快な気分で茶室から帰ってきたのは初めてだった。 癒しを求めたはずの茶室で、なぜこんなにも嫌な思いをせにゃならんのか。 難しい説明を一方的に聞かされた混乱、悶絶したくなるほどの羞恥、戦力差を忘れさせるほどの殺意、それらの感覚が、ネットワークから帰って目を覚ますことで頭痛に変換されたようだった。 頭痛薬、そうでなければニトロヂェリーが欲しい。 今更になってゴクラクの手土産が惜しくなった。 確か冷蔵庫にはヂェリーがまだ残ってた。 でもクレイドルから動く気になれず、目覚めた時の体勢のまま窓のほうを見た。 「今日は貴様の命」「を頂戴しに参った!」 開け放たれた窓の縁に黒と白の小人が立っていた。 腕を組んで背中合わせに立ち、景観が荘厳なわけでも雷鳴が轟いているわけでもない外をバックに、謎めいた登場を演出している。 黒と紫の忍装束、青いオカッパが少々幼く見えるフブキ。 白と赤の忍装束、赤い長髪を後ろで一本にまとめたフブキ。 二人とも首元にスカーフを巻いていて、外から室内に入り込んでくる湿っぽい風に僅かに揺れている。 忍者のくせに忍ぶ努力すら見られない。 ところで忍者型といえば、最近は『和』の心を捨ててしまった弐式とかいう神姫がいるけど、そういった意味であの二人は古き良きを守る正統派と言えた。 初代フブキとミズキの純正装備を身につけている。 私は和風神姫には、型式を超えた切り離し難いつながりがあると考えている。 紅緒に始まり、飛鳥、フブキ&ミズキ、こひる、蓮華、他少数。 『和』というコンセプトが武装の幅を狭めてしまうきらいがあるものの、単純な性能では語れないひとつの信念と少数精鋭であるというシンパシーは、私たち和風神姫にとって捨てがたいものとなっている。と思う。 それに、忍者型には個人的な思い入れもある。 なにせ忍者型は――唐突に告白するが――私のご先祖様なのだ。 詳しく知っているわけではないが、忍者だった私はホノカゲという爆弾魔で、尋常ならざる理由あって、かの有名な『ドールマスター』に弱者を装い近づいたそうな。 戦闘スタイルは爆弾魔の名に違わぬ卑怯卑劣なもので、バトル開始前からステージ全域に遠隔操作型の爆弾を仕掛けておくというものだ。 バトルの混戦の最中に誰も気付かないうちに仕掛けておいた風を装って、これで何人もの神姫を屠った。 同様の手口で『ドールマスター』を破壊しようとした、が、あっけなく撃退される恥さらしだったという。 せめてもの救いは、そんなご先祖様の噛ませ犬的な姿がWikiに晒される前に、歴史がデータの海に溶けて消えた(ボツになったとも言う)ことだった。 こんな情けないご先祖様でも、私のベースになっていることは間違いない。 そういったわけで私は、忍者には一目置くようにしている。 困っている忍者がいたら積極的に助けようとも思う。 私にできることであれば、漫画を読むことと天秤にかけたうえでお願いをされたっていい。 しかし今日ばかりはタイミングが悪かった。 寝そべったまま手を伸ばしてセイブドマイスターを掴み、セイフティを解除、ハンドルを引いてチャンバーに弾を送り込み、床と肘で大きな図体を固定してファイア。 「「あびゃあっ!?」」 命中したような悲鳴をあげる忍者二人。 しかしちゃんと狙わなかったため、弾は二人の頭上を通り過ぎて窓の外へ消えていった。 舌打ちして、もう一度構えた。 次は当てる。 「お、おい待て! いき」「なり何をするんだ貴様!」 忍者は二人で一つの文をしゃべるという、とても面倒なことをしていた。 黒い方が半分まで喋り、白い方が残り半分の文を引き継いている。 私に向けて手を付き出した「待て」のポーズは二人一緒だ。 焦った表情も一緒。 その芸風は私を馬鹿にしているように思えてならなかった。 いや、絶対馬鹿にしてる。 さっきのゴクラクといい、あいつらといい、どこまでもふざけた連中だこと。 清水研究室、死すべし。 「「ひえええっ!!」」 今度はしっかり狙ったのだが、忍者二人はそれぞれ両側へ跳んで回避した。 ゴクラクのような余裕綽々の避け方ではない、それはどちらかというと逃げる動作だった。 清水研のデスク長だからって、全員がゴクラクやギンのようにずば抜けて強い神姫とは限らないらしい。 まあ、そんなことは私にとっちゃ関係のない話なわけで、まずは黒いほうを屠る。 「ま、待てセイブドマイスター! 分かった、我ら」「が悪かった! だからまず話をしようではないか!」 「あんたらと話すことなんてないわ」 砕けろCSC。 「うっひょお!? だから待てというに! このままリアル戦闘行」「為を続ければ警察沙汰になるぞ! それは本意ではあるまい!」 「む」 それもそうだ。 こんなところで死なれちゃったらこの家が家宅捜索されてしまう。 それはちょっとマズい。 でもあいつらは私の命を取りに来たとか言ってたし、正当防衛じゃなかろうか。 ならば何も問題ない。 「爆ぜろCSC」 黒い方に銃口を向け直すと、とうとう両手を上げた。 黒い方だけでなく遠く離れた白い方まで同じく両手を上げた。 「分かった降参だ! 降参、マジで参りまし」「た! だからその銃を下ろしてください!」 ◆――――◆ 「自分らだって本当はこんな悪役」「みたいなことやりたくないんスよ」 とっちらかったマスターの机の上に忍者二人を呼んで正座させた。 私は二人の前に仁王立ちして、自分はいったい何をやっているんだろうと疑問に思った。 忍者達は、聞いてもいないのに勝手に身の上話を始めた。 「それなのに室長のヤツ、勝手に自分らを第六、第七」「デスク長にしといてこき使うんスよ。酷くないスか」 「知らないわよ」 私のご先祖様もそうだけど、忍者型ってこんなに情けない神姫だったっけ。 忍者のみんながみんな、こうじゃないはずだけど。 きっとフブッホとミズキッチョムの呪いとかそんな理由なんだろう。 「それに自分ら仲良しじゃないスか。だからせめて一緒のデスクに」「してくれって頼んだのに聞く耳持たないんスもん、あの迷彩巨乳」 「プッ、迷彩巨乳ね」 「あれ、姉さん知って」「るんスか、自分らの室長」 ついさっき会ったばかり、とは言わないでおいたほうがいいような気がした。 この二人は迷彩巨乳(的確な呼び名だ)の動きを知らないみたいだし、変に話を持ち出してややこしくなるのは避けたい。 「まあ、ちょっとね」 「マジっスか、すげぇな姉さん。室長って神姫センターと」「か普通の場所じゃ絶対にお目にかかれないレア神姫スよ」 「なんで?」 「そりゃあ強す」「ぎるんスもん!」 二人の眼の輝きが増して、表情に自慢の色が濃く表れた。 なんだかんだ言って自慢の室長なんだろう。 「ここらの地域って実は結」「構スゴいんスよ。知ってます?」 「さあ」 「日本代表レベルの神姫が五人も集まってるんスよ。五人とも公式戦みたいな表には出」「ないだけでガチっスもん。海外の筋肉ムキムキMMSとか一捻りスよ。スゴくないスか」 私のような平凡神姫が日本の頂点と聞くと、まず頭に思い浮かぶのは現日本一のアルテミスだ。 アルテミスは動画でしか見たことないけど、そのバトルは私の理解を超えた異次元にあった。 もし勝負したら十秒以内に撃墜される自信がある。 あんなのが身近に五人もいるんだ、恐ろしい。 海外の、特にアメリカのMMSも動画で見たことがあった。 ごくまれに神姫センターでも外国人マスターがバトルさせている。 一応同じMMSということで同じ筐体を使えるのだけれど、当然ながら彼らは武装神姫ではない何かで、普通の神姫バトルのようにはいかない。 アメコミヒーローみたいな筋肉塊が腕力にものを言わせて、比較的小さな建造物くらいなら軽々と放り投げたかと思うと、他のところではSWATみたいな装備のイカついMMSがプロの市街戦を見せつけていたり、文化の違いを感じさせた。 戦場は女子供が立ち入っていい場所ではない、それが彼らの言い分だった。 「あのイカついMMSとは関わりたくないわね。私達と同じ規格で作られてるってことが信じられないわ」 「あんなモンスターは室長みたいな」「バケモノに任せとけばいいんスよ」 「尊敬してるわりに薄情ねあんたら。――ちょっと待って。日本代表レベルってもしかして迷彩巨乳のことを言ってる?」 「そう」「っス」 あっさり頷く忍者。 私は急に気が遠くなり立っていられなくなって、クレイドルに座り込んだ。 「ど、どうした」「んスか姉さん」 「なんでもない。ちょっとめまいがしただけ」 忍者二人が来る前の出来事が、まるで映画のテープをめちゃくちゃに繋ぎ変えて再生したように次々と思い返されていく。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫と茶室で二人っきりになった。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫から土産を出されたのに無視した。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫に向けて機関砲を撃ちまくった。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫の強さの秘密を聞かされた。 【次そのツラ見せたら額の角と尻の穴を連結しちゃるかんね!】 人間で言うならば、おでん屋台で隣に居合わせた方が天皇陛下とは知らずに馴れ馴れしく愚痴ったり肩を組んだりしてしまうような感じだと思う。 手が震えてきた。 CSCが勝手にオーバークロックを始めて、思考が暴走しかかっている。 頭の中を迷彩巨乳の存在感あふれる姿が、最近お会いしていない【あの人】の姿と交互に走馬灯の影絵のように駆け巡った。 どうでもいいけど「死の直前に走馬灯が見えた」って言い方をすると、人生の最後に見たものが風流な灯籠だった、って意味になっちゃうから注意してねフフフ……。 「姉さん落ち着いて。走馬灯」「のたとえは大袈裟すぎっスよ」 「な、なななんで私の考えてること、分か、わか」 「姉さんの顔に書いてあるんスもん。室長と会った時に何やらかしたか知ら」「んスけど、気にしすぎっスよ。いくら強くても所詮は迷彩巨乳なんスから」 「そ、そうよね。あんな胸を見せびらかすようなヤツにわ、私、なに動揺してんのかしら」 慎ましい自分の胸に手を当てて、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。 そう、バトルの強さに関係なく迷彩巨乳は迷惑な清水研のリーダーで、それ以上でもそれ以下でもない。 クールになれ『セイブドマイスター』。 強さのインフレが止まってよかったと考えればいいじゃないか。 世界にはもう迷彩巨乳を超える神姫は出てこないんだ。 15cm程度の死闘の天井が見えたことは喜ぶべきことよね。 「ふう。もう大丈夫。そうよ、みんな同じ規格で作られた神姫なのよ。強い神姫、弱い神姫、そんなのマスターの勝手。大切なのは自分が武装神姫であることに誇りを持つことよ」 「うっは。さすが姉さん」「言うことがハンパないス」 「まぁね。それで? この地域にいる残り四人の強い神姫って誰なの?」 「一人は姉さんがよく知って」「るっスよ。『大魔法少女』ス」 「あばばばば……」 「うわあ姉さん」「が泡ふいたー!」 『マッドサイエンキャット』-2/3 トップへ戻る?
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「そして唐突に、3Sが斬るのお時間です」 「お時間ですね、サラ(仮)さん」 「(ぱちぱち)」 「なんでしょうかその(仮)というのは」 「前回お名前出ましたが、けれども正確には別神姫かもしれませんよーと言うアピールです」 「(うんうん)」 「いや意図よりも、その表現そのものに疑問が」 「なるほど、(笑)のほうがよかった、と」 「……この時代、マサルさんなんて誰も知らないと思う」 「それが判ってしまうのが、ディープな世界の猛者たちです」 「本当に油断がなりませんね、この業界」 「(放課後キャンパスのポーズ)」 「さて、ぐだぐだトークはこのあたりにして、本題です」 「あったんですね、本題が」 「……意外」 「生温かいご声援、ありがとうございます。さて、それで本日のお題は『第六弾武装神姫について』!」 「第七弾は年末に控えている今、最新の武装神姫ですね」 「寅は許す。丑は許さない。建機は判断保留」 「お、さっそく積極的なご意見が出ました。して、その心は?」 「悪魔型として、やや苦手な遠距離型と、組み合いやすい近距離型ということでしょうか?」 「主に胸」 「判ります!」 「判りますとも!」 「女性にとっては、わりと切実な問題らしいですねぇ」 「そうなの?」 「私に聞くなっ!」 <戻る> <進む> <目次> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ 鋼の心 ~Eisen Herz~
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第5話 「歴史」 コイツが俺と同じで、左足がちょいと不自由だってのは今更な話。 フツーに歩く分には『少し違和感がある』程度らしいから、いいっちゃいいんだが……問題は例のデカブーツ。 何度も言うようだが、やたらとデカくてゴツい。 こんなモノくっつけたまま移動するってのは、コイツの足にかなりの負担が掛かるだろう。 かと言って外しちまうと、今度は背中の腕やら何やらが重すぎてロクすっぽ歩けやしない。 さてどうしようかとアレコレ考えていたが、ルーシーの『じゃあ右足にだけ装着しましょう』というヒトコトで解決した。 ……つっても、そう簡単に行くわけじゃない。 本来2本の足で支えるべき背中の装備+素体+他各種の重量を1本足で支えなきゃいけないってんで、オートバランサーの調整と一緒に補助シリンダーを装着しよう、という話になった。 細かい調整はコイツ自身が担当するらしいし、俺がやったのはシリンダーの注文くらいのもの。 ここでも俺に気を使っていたが、今や俺とコイツはパートナー。 気にすんなと頭を撫でてやったら赤くなって俯いた。 愛いヤツめ。 ま、部品の到着だ何だでしばらく先になりそうなんだけどな。それまではまったりしよう。 数日の間に改めて世間を見渡せば、武装神姫の話題はそこかしこに転がっていた。 TVで流れるCMに始まり、ネットには1日2日じゃ回りきれないほど大量の専門サイトが乱立し、新聞には取り扱いショップの折り込みチラシ。 外に出れば駅に貼られたポスターに電車内の吊り広告、トドメに街頭でコスプレしたお嬢さんらが笑顔でビラを配り、『武装神姫』のロゴやイラストがプリントされたTシャツだのジャケットだのハチマキだのをした連中が群がってるときた。 「いやはや猫も杓子もナンとやら……こんなんで大丈夫なのかね、世ン中ってのは」 「現在、『武装神姫』は株価市場に影響を与えるほどの大ヒット商品になっているんですよ」 どこか誇らしげなルーシーの言葉に、俺は学生時代に受けた歴史授業の事を思い浮かべた。 「1990年代後半から2000年初頭にかけて爆発的に肥大化した『オタク産業』の再燃ってか」 20世紀の時代から海外でも評判の高かった日本産のアニメ・マンガ・ゲームの3つが基本になってる『2次元産業』に、食玩ってのを中心に広がった『3次元産業』をまとめて『オタク産業』と呼ぶ。 1990年代初頭の『バブル崩壊』から日本経済は延々と停滞・下降を繰り返していたが、唯一と言っていいほど上昇を続けていたコレのおかげでなんとか持ち直したらしい。 当時はヨソの国から「かつての『黄金の国』は現代になって『夢物語』に救われた。 まさに夢のような国だ」なんて陰口を叩かれた事もあったらしいが……何しろ今から40年近く前の話。 俺たちの知った事じゃない。 たかだかオモチャが世界を動かす……武装神姫は、またそういう時代を運んできたのかも知れない。 ちなみに俺は、学生時代のテストで「当時の国内で最もオタク産業の盛んだった場所は?」って問題に「アキバハラ」と答え、めでたくでっかいバツをもらった。 ……いいじゃんか、どーせ『アキバ』で意味は通じるんだから。
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呪いと嘆きの縛鎖を、断ち切って(その一) ──正直言って、まだ全てを信じ切れた訳じゃない。けど、あの人達は。 “お姉ちゃん”達は、こんなアタシを受け入れてくれると言った。だから 掴みかけた暖かい幸せは、絶対に放さない。それが、アタシの願い──! 第一節:呪縛 アタシ・“五女”エルナが、皆に受け入れられて数時間。戦いで疲労した 皆は、“マイスター”……晶さんのチェックを受けていたわ。仮想空間で 戦っていたとは言え、予想外の出来事を受け……皆、ガタが来てたのね。 「ロッテの全チェック終了……特に、異常なし。負荷は掛かった様だが」 「何よりですの♪でもマイスター、“アレ”は結局何だったんですの?」 「CSCに同名のルーチンはあるが、名前以外は特に問題ない要素だな」 「だけどあの時のアタシを倒した光の槍は、間違いなく普通じゃないわ」 予想外と言えば、ロッテお姉ちゃん達が纏っていた“約束の翼”。何でも マイスターのペンダントには同じ名前が刻まれていたらしいわ……だけど それだけの話。何処かに特殊な機能が備わっていた訳では、決してない。 だけど、それならアタシ……“ロキ”を倒したあの力は、何なのかしら? 「エルナが言うのなら、間違いはないのだろうな……しかし、益々謎だ」 「アルマお姉ちゃん、貴女は何か知らない?……アルマ、お姉ちゃん?」 「ぅ……お、お姉ちゃんって自然に呼べる様に、なってきましたね……」 でも謎を求めて話を振った“お姉ちゃん”は、とても苦しそうだったわ。 戦闘直後は何もなかったのに、この一時間程度で急に辛そうにしてるの。 それでもアタシに笑いかけてくれるんだけど……正直、見るに耐えない。 「……アルマお姉ちゃん、本当に大丈夫ですの?何処か壊れてません?」 「クララお姉ちゃんもそうよ。同じ様にさっきから苦しそう……何故?」 「ボクらも、わかんないよ……お姉ちゃんって呼ばれるの、初めてだよ」 「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!アタシとの戦いで、何処かッ」 アタシの不安に、クララお姉ちゃんはきっぱりと首を振る。そうなの。 皆が受け入れた瞬間に、自分がこの人達の“妹”であるという認識は、 すんなりとアタシの胸に納まった。でも、だからこそ……この姿は正直 見ていられないの。アタシが何かしたんじゃないかって、不安で……。 「あの……マイスター、先にエルナちゃんを診てあげてくれますか」 「ボクらは、ちょっとクレイドルで休んでから……大丈夫、だよね」 「お前達が良いのなら構わぬが、くれぐれも……無理はするなよ?」 そんな皆の心配を振り切る様に、アルマお姉ちゃんとクララお姉ちゃんは サーバ横の仮設クレイドルに横たわったわ……二人の機能は沈静化した。 でも……そう感じた、その瞬間。二人の躯が小刻みに震え始めたのよッ! 「う、うあぁ……うああぁああぁ!!!」 「くぅ、うう……うううぁぁぁっ!!!」 「あ、アルマ!?クララ、どうしたッ!」 「ま、マイスター!?サーバの調子が!」 ロッテお姉ちゃんが叫ぶと、サーバの液晶パネルにはドット欠けの様な ノイズが走り始めたわ。アタシはそれを見て、直感的にサーバの通信用 ケーブルを引っこ抜いたの。このままでは良くないって、感じたから。 これで何があっても、このビルから外部には影響が及ばない筈よ……! 「い、一体なんだ!何が起きているのだ!?二人はどうしたのだ!!」 「ねぇ……ひょっとして、アタシに何かいけない細工でもあったの?」 「エルナちゃん……決してエルナちゃん自身が悪い訳ではないですの」 「分かってるわよ、ロッテお姉ちゃん!でも、本当に……何よこれ?」 アタシの所為なのか、それとも危険な因子が最初から潜んでいたのか…… 分からないけど、ウィルスに侵された様にサーバを狂わせる“何か”は、 外部通信を試みようとして、唯一繋がってたトレーニングマシンと接続。 そちらに、実態を持ったシルエットとして“影”を投影したのよ……!! 「これは……噂に聞くイリーガル・レプリカか?いや、違う……何だ!」 「あ……マイスター、見てアレッ!ほら、影の真ん中に“居る”わ!?」 「そんな!アレは……アルマお姉ちゃんと、クララちゃんですの……!」 ──────何故、なんで……何が、どうなってるの!? 第二節:悲壮 アルマとクララ。二人の“お姉ちゃん”を呑み込んだ“影”は、侵入した トレーニングマシンを強引に乗っ取り、異様な世界を作り上げ始めたわ。 即ちそれは、暗黒の荒野。地上の街を模した様な建物が並ぶけど、そこに 現実感はないわ。言ってみれば“ゴーストタウン”、そこに奴がいるの! 「な、なんだこれは……“悪夢”とでも形容できそうな物だな……!」 「マイスター、そんな場合じゃないですの!サーバが直りましたの!」 「……“悪夢”が二人と一緒に移動したから、サーバも安定したのね」 正体は誰にも分からない。けど、アタシは感じるの……あの“影”は、 素体からアルマお姉ちゃんとクララお姉ちゃんのデータをもぎ取って、 人質にする感覚でサーバから、トレーニングマシンへと移動したのよ! それを裏付ける様に、二人がサーバをチェックした結果が出てくるの。 「エルナ。お前の予想通りだ……アルマとクララのデータが、ない……」 「それに何かが、トレーニングマシンに送信された形跡がありますの!」 「……何故、あんなのが二人に入っていたの?どうして、こんな事に!」 「分からぬ……しかし、奴を外界に出してしまえば良くない事があろう」 でも、出てくる結果はどれもこれも最悪を予想させる物ばかり。データを 強奪・破壊したり、片っ端からネットワークに侵入しようとしたり……。 まるで“ワームウィルス”の様に、奴は不気味な動きを見せているのよ。 ……マイスターがそういう判断をしたのも、当然なのかも知れないわね。 「今、“影”……ううん、“悪夢”はトレーニングマシンにいますの?」 「ああ、奴はそこで自己を強化している……まさかロッテ、お前は!?」 「はい!このまま二人が消えて無くなる前に、わたしが助けますのッ!」 「待って、アタシも行くわ……このまま消えられるなんて、嫌よッ!!」 そして、ロッテお姉ちゃんが……勇気ある彼女が、突入を提案するのも 当然だったわ。でも、彼女だけを行かせたくはない。アタシにだって、 きっと出来る事があるはずなの。だから、アタシも手を挙げたわ……! しかしマイスターは重く首を振ったわ。涙を流しながら、告げたのよ。 「……行かなくていい。お前達まで取り込まれてしまったら、私は……」 「その時は、サーバの電源コードとUPSをカットしてくださいですの」 でもロッテお姉ちゃんの決断は、愚直と言える位にストレートで素早い。 “姉妹”を助けたい、その想いは決して偽りじゃないのよ。アタシの時に 叫んだ言葉は、決して嘘じゃない……本物なの。でもマイスターは……! 「嫌……いやだ。皆一遍に喪うなんて、私は……そんなのは!!」 怖かったのかも、しれないわ。只でさえ、アタシとの大勝負を乗り切った 後だったのよ?また皆を喪うかもしれない不安には、多分耐えられない。 その想いは痛い程、アタシの胸を震わせる。喪う事への恐怖は、アタシも 経験してきた過去だから……でも、この“お姉ちゃん”は違っていたわ! 「──マイスターの、いくじなしっ!」 「うッ……!?ろ、ロッテ……お前っ」 ロッテお姉ちゃんは、マイスターの肩に飛び乗ると……頬を叩いたのよ。 そう。怖がっていたアタシに対してさっきやった様に、済んだ一撃をっ! 「マイスターが怖いのは、分かりますけど……大切な“姉妹”達ですの」 「……ロッテ、エルナ……いいのか?お前達も、戻れないかもしれんぞ」 「一人でも喪えば、十分マイスターが哀しむ筈ですの。それなら……ね」 「アタシは、折角掴みかけた幸せを喪いたくない……だから、行くわ!」 ロッテお姉ちゃんといると、不思議とアタシの決意も強くなっていくの。 そうね……きっとこうして、三人の“お姉ちゃん達”も強くなれたのね? この娘は、只のリーダーというだけじゃない。皆の中心だったのよ……! それを実感するからこそ、今のアタシにも……もう畏れは、なかったわ。 「……ならば、何も言うまい。蹴散らせ、呪いの縛鎖を断ち切るのだ!」 「はいですの♪絶対に、絶対に……二人を助けて帰ってきますの……!」 「行ってくるわ。望まれたからには、アタシもそれなりの事をしないと」 「大丈夫ですのエルナちゃん。戦いに“誇り”が有れば、勝てますの♪」 そう言い親指を立てて、ロッテお姉ちゃんは機械の中へ入っていったわ。 アタシもそれに応え、さっき己が入ったハッチへもう一度入るの。そして 意識が浮遊する独特の感覚を乗り越え、アタシ達はやってきたのよ。闇の 奥深くへ……“悪夢”が待ち受ける、正真正銘・最終決戦の舞台へとッ! 「何処にいますの、アルマお姉ちゃんとクララちゃんを離しなさいッ!」 「……ロッテお姉ちゃん、アレよ!間違いない……アレが“悪夢”だわ」 『ォォォ──────!!』 ──────もう喪いたくない。“大切な人”を……護りたいの!! 次に進む/メインメニューへ戻る
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人物設定 金矢利道 SOS技術研究所に勤める研究員 二人の神姫をこよなく愛している マッドサイエンティスト気質で、バトルに参加したいとマリンが言ったとたん武装を即座に用意するなど、行動力溢れる人 ただし、基本的に意地のいい人ではない アニタ(ストラーフ型) 明るく活発。マスターにちょっとしたイタズラやわがままを言い、それを許してもらえるのがうれしくて仕方が無い子。 要求のレベルは非常に低く、確実に実現できるものをチョイスしている 自分のわがままや生意気さを自覚していて、それを許してもらうことに愛を感じている 裏闘技場での経験がトラウマになっており、最近夜中うなされている マリン(アーンヴァル型) 生真面目で大人しい。マリンのお姉さん的存在。口数が少なく、何を考えているか分かりづらいが、たいしたことは考えていない 自分の要求を口に出せないが、マスターがアニタにしてあげたことをすぐに自分にもしてくれることに幸福感を持っている その性格が災いして、利道にいじられている 武装設定 標準装備 タクティカル・エッジ 大型ナイフ 知り合いの研ぎ師に無理矢理作らせたもので、このサイズとしては異様な切れ味を持つ 2mm厚の装甲板を貫通可能 ターミネーター・マチェット 大型実体剣 小さいが、日本刀と同じ手法で作られており、すさまじい威力を持つ 直径5mmの鉄棒をたやすく両断する マリン専用バトルコスチューム 人工筋肉製の強化外骨格の上に、防弾防刃耐熱繊維で作られたメイド服を着込んだもの どちらの素材も、SOS技術研究所で開発された最新鋭の技術を持って作られている メイド服のスカートの中に多種多様な武器を隠しており、まさに「メイドさんのスカートのなかは宇宙と繋がってる」といった感じ ポケットと内部がつながっており、そこから武器を出す ちなみに、人工筋肉製外骨格の形状の都合上、通常の神姫より肉感的なスタイルとなっている 更なる秘密機能が隠されているとのうわさも… マリン専用武装(一部) リボルバー(S W M10型)×2 オートでなくリボルバーなのはただの趣味 クイック・ローダーではなく、手で装填する ちなみにこれとナイフだけはエプロンのポケットの中に納められている ショットガン(SPAS-12型)×2 これまた趣味で選んだショットガン メイド服とショットガンほど似合う組み合わせは無いとのことで、主力武器としている サブマシンガン(UZI9mmSMG型)×2 趣味で選んだサブマシンガン ちなみに、神姫用弾薬の規格は(基本的に)統一されているのでリボルバーと同じ弾が使える 無反動砲(パンツァーファウスト型)×4 スカートの中に納めるために、小型化されたパンツァーファウスト SOS技術研究所のオリジナル作品 小型化の影響で威力射程は劣化しているが、その分数を揃えることで対応している スカートの中から出てくる様はある種卑猥である 威力が劣化しているとはいえ、15mmの装甲を貫通する能力がある 射程も、基本的に近接戦闘になりやすい武装神姫の戦闘では問題にならなかった ちなみに、小型化によって軽量化された恩恵か、使い勝手は非常に良好で、後に少数生産であるが一般販売されている 用語 SOS技術研究所 元は人工筋肉関連の技術研究を行っていた研究所 現在は、神姫用人工筋肉のライセンスなどでウハウハ 金があるので、大分趣味に偏った研究に走っている それでも十分な成果を上げている ちなみに、SOSとは研究所を立ち上げたメンバー 所長の相馬、主席研究員の尾田、出資者の柴崎 それぞれの頭文字を取ったものである
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昔々。と言っても何百年、何十年も前ではなくて数年前くらい昔の話。ネットバトルにとても強いアーンヴァルが居た。名前はアルテミス。奇しくも公式大会で優勝したアーンヴァルと同型同名の神姫。今のところ因果関係は一切不明だけど兎にも角にもネットバトルにアルテミスという名前のとても強いアーンヴァルが居た。 アルテミスは試験的に作られたAI 「アルテミス・システム」が搭載された神姫であり、その強さの秘密は既存のAIを遥かに上回る学習能力にあった。具体的に言えば戦えば戦うほど強くなる某戦闘民族のような神姫だったらしい。その戦いっぷりから今では伝説の武装神姫とまで語り継がれていて、頂点に立っていたアルテミスよりも強いと賛辞する人も少なくはない。 伝説のアルテミスのチャンピオンのアルテミス、どちらが強いのか、その試合は今も成立していない、というのも伝説のアルテミスはある日突然バトルを止めネット上から姿を消してしまったからだ。噂によると「アルテミス・システム」は開発した研究者達の予想を上回る成長を遂げた為に破棄されたと言われている。高過ぎる学習能力を持ったアルテミスが将来人類を脅かしかねないと判断されたんだろう。 伝説のアルテミスが活躍していた当時、僕とイシュタルも神姫バトルをやっていたにも関わらず伝説のアルテミスと出会う事も戦う事もなかった。何故かは分からないけどアルテミスはネットバトルばかりをしていてイシュタルは臨場感の有るという理由でリアルバトルばかりしていたからだ。 「アルテミス・システム」はAIに限りなく人に近い能力を持たせる事を目的とされて作られた。そんなAIを持っているアルテミスと僕が知る限り最高の神姫であるイシュタル…この二体が出会ったらどうなっていたか。最早それは叶いそうない夢ではあるけれど心の何処かで願ってしまう。何処かでアルテミスと出会いたい、どんな形でもいいから出会わせたいと。 「―――もしもし?」 『やぁ、白太くん』 神姫狩りにイシュタルを誘拐されエルゴに迷子のマオチャオを送り届けてから三時間後。エルゴで買ったばかりの本を読んでそんな物思いに耽っていたところに電話を掛けてきたのは日暮店長だった。 「店長? あ、もしかしてイシュタルが見つかったんですか?」 『見つかった。確かに見つかったんだが…』 「良かった! 心配で家に帰れなかったんです、直ぐにそっちに行きますね!」 『いや、来なくていい。…その、何だ。君は口は固い方だったかな』 「え? …まぁ、それなりには」 日暮店長の歯切れが悪い。何か起きたのだろうか、でも何が起きたのかが分からなくて曖昧に頷くことしか出来ない。少しして日暮店長は重い口調で語り始めた。 「落ち着いて聞いて欲しい。今イシュタルは殺人事件の現場に居合わせた神姫として警察に没収されている」 「…殺人事件? 現場?」 「被害者は若い男が二人と若い女が一人。君を襲った神姫狩りだ」 殺人事件、現場、被害者、なんてテレビの向こう側でしか使われない言葉が、今正に僕の耳元で、日暮店長の口から跳び出て重く圧し掛かってくる。 「もしかしてイシュタルが疑われてるんですか」 「いや、犯人は神姫狩りが持っていた神姫だと聞いているが、これ以上は調査待ちだ。兎に角、警察からイシュタルは俺が引き取るから今度こそ君は家に帰るんだ」 「分かりました…」 そして一方的に通話を切られる。説明が足らなくてイシュタルを取り巻く状況が全然分からなくて納得が出来ないけど日暮店長に力強く帰宅を促されたので納得するしかない。もう直ぐ帰りの電車が駅に留まる時間だ。突然の事態に混乱しているけど今日はそれを我慢して独りで帰るしかない。肩にイシュタルを乗せず帰路に着くと言うは久し振りだった。 …。 …。 …。 日暮店長からイシュタルを引き取りに来るように言われたのはそれから五日後の朝。その日は平日だったけれど早くイシュタルに会いたい一心で学校が終わったら直ぐ引き取りに行く事を約束し、日課の予習と復習も投げ出してエルゴに向かった。 電車の中でエルゴに電話を掛け直し殺人事件におけるイシュタルの扱いについて尋ねたところ、先ずは事件の調査結果について教えてくれた。 今回の事件を大まかに言えば「違法改造が原因で起きた神姫の暴走事故」に落ち着いたらしい。誘拐直後に起きた事件であることからイシュタルを容疑者と訴える声も有ったが現場にあった神姫狩りの(被害者)のパソコンには事件が有ったと思われる時刻にイシュタルはデータコピーをされていたというアリバイが残っていた。 また警察自慢の科学捜査班による検査でもイシュタルには人間を攻撃してはいけないという原則が正常に作動していることと、僕が日暮店長に通報を入れた直後から警察に保護されるまでの間イシュタルには記憶が無いことが証明される。催眠術と言う線も疑われたが、誘拐直後に神姫狩りに強制的に停止させられたと見るのが妥当で、催眠術にしてもでは誰がイシュタルに仕込んだのかという新しい謎しか生まないので却下された。 イシュタルが殺人を犯したという証拠は存在せずそもそも不可能である。以上の事からイシュタルは容疑者から外され、疑惑こそ残るものの消去法で違法改造されたムルメルティアが起こした暴走事故と言う形で解決した。 神姫も人間と同じで正常な判断力を失っていたなれば罪は軽くなる。けれどムルメルティアのAIは修復不可能なまでに滅茶苦茶にされているのでリセットされるだろうと日暮店長は悲しそうに付け足した。 一人の武装紳士として僕も悲しい。傷付いた神姫が居るのに助けられなかった。だから僕はただの我が儘だとは分かってはいるけれど頼んでみる。 「店長、ムルメルティアは僕が引き取ってもいいですか?」 日暮店長は返答を渋っていた。 …。 …。 …。 電車を降りて数分歩き、僕はエルゴに入る。月に一度と決めていたのに一週間に二度来店する日が来るとは思わなかった。仕方が無いとはいえ今月の昼食はずっとエアパスタである。 気を取り直し日暮店長を探して歩きながら店内を見渡していると、おや、あの神姫は新入りさんかな? 可愛らしいエプロンドレスを着たストラーフが商品の陳列をしていた、ってあれイシュタルゥ!? うわ、ノリツッコミなんて産まれて初めてだ! イシュタルも僕に気付いたようで一瞬だけ固まったけれど直ぐに営業スマイルに…なれてない、笑顔になれてないよあれ恥ずかしい格好してるところを息子or弟に見られたところを必死に取り繕うとしている母or姉みたいになってるっていうかさっきから僕の方にもダメージ大きいんだけど何これ何この諸刃のゲイルスゲイルグル。 「い…いらっしゃいマス、御客様」 「…や、やぁ、ここ、こんにちは。その…店長さんは居るかな?」 「日暮夏…店長なら二階にいらっしゃいます」 「分かったよ。あり、ありがとう」 「ど、どういたしまして…」 気まずい凄い気まずい口から泥吐きそうだ知らん振りして他人の振りあれはイシュタルじゃない同型の他神姫だあんな可愛い衣装着てるストラーフが堅物なイシュタルなわけがないさっきイシュタルかなって思ったのは気の所為だいやイシュタルに見えた事自体が何かの間違いだ無かった事にするんだ僕は何も見なかったえぇい消えろ消えろ忌まわしい記憶よぉおおお! 「やぁ、白太くん」 二階から降りて来た日暮店長から後光が差して見えた。と一瞬思ったけどイシュタルにあんな格好させた犯人は日暮店長じゃないかと気付くと殺意が沸いてくる。 「ど、どうしたんだよ、そんな怖い顔して」 「何でも有りませんよ。それでイシュタルを引き取りに来たんですけど」 「イシュタルならそこに…あれ、どこにいった?」 「AHAHAHAHA、店長は何を言っているんですか~?」 そう、僕はまだイシュタルに出会わなかった! エプロンドレスを着たストラーフなんて居なかった! 「まぁいい。引き渡す前に事件について話したい事が有るんだが、時間はいいか?」 「事件について? …いいですけど」 あれ、もう全部聞き終えたと思ったんだけど。 「ジェニー、店番頼んだ。…白太くん、ちょっと来てくれ」 「分かりました、マスター」 「分かりました」 多少とはいえ御客さんのいる店の中で殺人事件の話をするのは嫌なのだろう、僕は日暮店長に連れられて店裏を歩き倉庫を通り過ぎて修理室にまで来た。確かにここまで来れば盗み聞きはされないだろうけどちょっと警戒しすぎじゃないだろうか。 「さてと、白太くん。事件については電車で話した通りだ。覚えているよね?」 「覚えてますよ。でも、もしかしてまだ他に何か有るんですか?」 「いや、無い。俺が知り合いの刑事から聞いた事件の内容は全て君に話した」 「じゃあ他に何が? あ、そう言えば事故を起こしたムルメルティアについて聞いていませんでしたね」 「それは後回しだ。…ちょっといいか」 日暮店長は一度大きく深呼吸する。そして僕に向き直った時、その眼には、正義を宿す強い意思が燃え盛っていた。 「単刀直入に言う。俺はこの殺人事件の犯人はイシュタルだと思っている」 「えぇっ!?」 予想外の告発に思わず大きな声を出してしまった。ここが店の中じゃなくて良かった、じゃなければ周りの人から凄い注目を集めていただろう。修理室で僕の声が反響を繰り返しているのも気にせず日暮店長は続けた。 「今から語ることは全てオタクの妄想だ。証拠も何も無い。聞き流してくれても構わない。先ずはイシュタルの能力についてだ」 「は、はぁ…」 の、能力って、少年ジャンプじゃあるまいし。そう言いたかったけど日暮店長は一切のつっこみを許さない凄味を放っている。 「イシュタルは電子機器を自由に操作出来る能力を持っている。それも並大抵じゃない…神姫のAIを自由に操って警察の科学捜査官すらも欺く、超が幾つ付いても足りない凄腕ハッカーだ。それならパソコンに残っていたログのアリバイも、狂ってしまったムルメルティアも説明が付く。全てイシュタルが手を加えたものだ」 「確かにそれなら説明が付きますけど、ちょっと強引じゃありませんか?」 「だが理論上は可能なはずだ。何故ならイシュタルの性能は既存の神姫より遥かに上なんだからな」 何時か前にも同じ事を言われた様な既視感。 「イシュタルは、確か武術を好んでいるんだったな?」 「大好きですね。自分は武装神姫じゃなくて武術神姫だって自称するくらい」 「フィクションの拳法に内功というものがある。これはバトル漫画なんかでよく出る「気」と殆ど同じもので、鍛錬によって「気」は増大し身体を強化したり治癒能力を高めたり一発で相手を倒したり出来る…イシュタルはこれから着想を得た。神姫である自分は幾ら鍛えても「気」なんて出せないが「電気」なら有る。「電気」を操れるよう君に改造を頼み「電気」を「気」の代わりにして色々な使い方を試している内に電子機器を操るという使い方に気付いた」 「確かにイシュタルは電磁波出せるように改造しましたけど。規定の範囲内で、しかも反射波を利用したセンサーとか遠隔操作系武装へのジャミングとかにしか使えませんよ」 「ハードを改造する前まではそうだったんだろうな」 「ハードを改造したのは動作の速度と精度を高める為です。そもそもストラーフの得意分野は格闘戦ですからね。それに例えとして日暮店長の言う通りイシュタルに電子機器を操作する能力を持っていたとして、ロボット三原則はどうなるんですか?」 「何も問題は無いさ。神姫は人間に攻撃出来ないが神姫には攻撃が出来る。違法改造によって人間に攻撃出来るムルメルティアに人間を殺させるように操ればいい。しかし実際にはイシュタルが殆ど殺したんだろうな。被害者の一人は背後から刃物で急所を刺されて即死した。狂った神姫じゃとても無理な芸当だ。だが実質オーナー無しでファーストランカーにまで駆け上がった神姫なら不可能じゃない」 「そりゃーまー僕は指揮者としてはへっぼこですけどさー」 へそは曲げたけど事実は曲げない。日暮店長の言う通りだから。 昔から僕はスポーツとか格闘ゲームみたいな瞬間的な判断力を必要とするものが苦手で、実を言えば神姫バトルで指示を出したことは殆ど無い。バトルで指示を出したりライドオンしたりする表向きの活躍では無く、神姫の整備、武装の改造、対戦相手の情報収集といった時間を掛けてじっくり目標を理詰めする裏方作業の方が得意だった。 むしろ運動得意で指示出来て神姫整備出来て武装自作出来てイケメンで頼もしい親友出来て可愛い彼女出来る(ここ重要)なんてガチチートだと思うんですがどうでしょう。それはまぁ、横に置いて。 「それじゃあ記憶の空白はどう説明するんですか。イシュタルには誘拐された後の記憶は無いんですよ?」 「今回の事件最大の問題はそれだ。普通神姫の記憶を消すにはオーナーの手助けがいる」 「僕は無理ですよ。神姫狩りの居場所を知ってたら先ず日暮店長に通報してます」 「君を疑ってはいないさ。事件があった時間、君は駅で本を読んでいたことを駅員が証言してくれた」 「疑ってはいたんですね…」 「探偵っつーのは人を疑うのが仕事なんだよ」 日暮店長に疑われたことにショックを受けるべきか、疑いが晴れたことに喜ぶべきか、複雑。 「話を戻すぞ。そう、盗難防止用に神姫の記憶にはオーナー認証を必要とするロックがある。だがイシュタルは自分自身という電子機器すらも操る事も出来るんじゃないか?」 「…ごめんなさい、店長。僕、店長が何を言っているのか分かりません」 「文字通りの意味だと考えてくれ。俺が思い付く限りでは、イリーガルマインドが無くともリミッターを外せ、原則を取り除かずとも人間を攻撃出来、人間の手を借りずとも自分の記憶を消去出来、他人の神姫のAIや記憶を自分に転写出来、意識が無くとも事前に定めた動作内でなら動ける、こんなところか」 「え、ちょ、ちょっと待って下さいよ!」 次々と挙げられていったイシュタルの能力に慌てふためいた。 いや、だって誰だって同じ反応をするだろう、そんなの無茶苦茶だ! もしそれが本当に出来るのなら、出来ない事が殆ど無くなるじゃないか! 何よりも自分で自分を別人に書き換えられるなんて既存のAIだって無理だ! 出来るとすれば、それは最早、 「自分で自分を書き換えられるAIなんて、AIの範疇から大きく離れてる!」 「あぁ、そうだ。イシュタルは一個の電子生命体とも言っていいだろう」 日暮店長は易々と僕の思っていたことを口にした。電子生命体、想像主によって定められた規則に縛られず自由に電子の世界を生きることの出来る不老不死の生命体。科学技術が発達した今でも空想上の存在。 「そ、そんなの、オフィシャルや捜査官の目に留まらないはずがないじゃないですか!」 「予め何処かにバックアップを残しておき検査が入る直前で自分を普通のAIに書き換えるか、もしくは検査するソフト自体を操作すればいい。恐らくは前者の方法を採っているんだろうな」 「な、何でそんなことが分かるんですか?」 「五日前にイシュタルのAIを調べたよな。その時に使ったソフトを調べ直したが書き換えられた痕跡が無かったんだ。…俺が気付いていないだけの可能性もあるが」 「あの時の…もしかして、あの時から疑っていたんですか?」 「いや、全く。今と昔の神姫のAIを調べろって依頼は本当に有ったんだよ。あの時イシュタルは高性能な神姫くらいにしか思っていなかったが今回の殺人事件で考えを改めざる得なくなった」 「でも滅茶苦茶が過ぎますよ。そもそも神姫が神姫を操るなんて事自体に無理が有ります」 「そうか? 神姫を操る神姫なんてざらに居るぜ? 俺とジェニーもその手の奴とやりあった事が有るしな」 ぐぬぬ、確かに居るけどさ。僕も知ってるけどさ。でも、それでも! 「イシュタルが電子生命体だったのなら僕が真っ先に気付いてますし、そもそも電子生命体なんて存在しませんから! はい、証明終わり!」 「何勘違いしてやがる。俺の推理はまだ終了してないぜ」 「終了も何も始まってすらいないでしょう。電子生命体が居るなんて前提に無理が有ります」 「いや、無理ではない。あるAIならその領域にまで成長し得る可能性が有る。…白太くん、君はそれを知っているはずだ」 「えっ?」 えっ? 「「アルテミス・システム」。人間に近付くことを目的に造られたが近付き過ぎた故に破棄されたパンドラのAI。そして君はそれを熱心に調べている。五日前にこの店で買った本も「アルテミス・システム」を造った研究員の著書だ」 「だ、だってそれは…神姫オーナーが伝説の神姫に興味を持つのは不思議なことじゃないでしょう?」 「いや、違うな。君の場合、興味なんて生温いものじゃない。もっと深みに踏み入れている」 「一体何を根拠にしているんですか!」 あ、しまった。つい苛立って探偵に追い詰められた犯人がさらに追い詰められるフラグを立ててしまった。日暮店長が名探偵さながらな知的な雰囲気を醸し出して見える。 「俺の推理はこうだ。黒野白太、お前には何か目的が有って「アルテミス・システム」を研究していてその実験としてイシュタルに「アルテミス・システム」を組み込んだ。だが先のアルテミス同様、実験は失敗しイシュタルは制御出来ない怪物と化した。パンドラのAIの中にいたもの、それが電子生命体「イシュタル」だ。そして今、お前は世間の目を欺く隠れ蓑として生かされている。だからお前はイシュタルの殺戮を見逃して何も知らないような振りをしている」 「そ、そんなことは…」 「イシュタルは今ジェニーが見張っている。正義の味方として全力を尽くすつもりだ。俺に真実を教えてくれないか、白太くん」 「…」 …凄いな、日暮店長は。何の手掛かりも無しにイシュタルの能力とAIの異常成長だけじゃなくて僕の嘘まで見破るなんて。余程「神姫を操る神姫」との戦いが強く印象に残っているんだろう。じゃないと、そんな発想は出来ない。 でもイシュタルが「アルテミス・システム」の失敗作だとか、人間が神姫の隠れ蓑にされているなんてのは不正解、漫画の読み過ぎだと思う。イシュタルが逮捕されるのは困るから正直には話せないけれど迷推理を披露してくれたお礼に間違いの指摘と正しい答えを教えてあげた。 「誤解してるようですが別に僕は支配なんてされていませんよ」 まぁ、照れ隠しで指をヤられたり、血ヘドを吐かされるような特訓させられたりはするけど。あれ、あんまり大差無い? 「そもそも中学生がどうやってアルテミスシステムを作り上げたっていうんですか?」 「君はファーストランカーだ。神姫関係者との繋がりも有るだろう」 「それが目的でファーストランカーになったのは確かですけど根底的にイシュタルと「アルテミス・システム」は無関係ですよ」 「どう言う事だ?」 「原因は僕にも分かりません。物心の付いた時からイシュタルは強かった」 そう。イシュタルは電磁波を操る能力なんて持っていなかった頃から異常だった。過剰強化された武装や反則染みた能力を持っている自作武装が当たり前だった神姫バトル草創期において自分は純正武装のみであったにも関わらず勝ち続けた。ついには『鬼子母神姫』なんて渾名が付いた程だ。 その原因は今でもハッキリとは分からないけど僕は当時の僕を取り巻いていた環境にあると予想している。 今は正式にオーナー変更されてるから誰にも気付かれないんだけど、実はイシュタルの元々のオーナーは僕ではなく僕に僕の父親だった。けれど本当のオーナーからは放置され、命じられるがまま幼かった僕の世話をしている内にイシュタルの中で本来神姫がオーナーに向けるべき忠誠をオーナーではない僕に向けてしまうという矛盾が発生した。その矛盾が当時の神姫バトルという死と隣り合わせな状況で異常成長し、現在にまで至った。 父親が少しでもイシュタルを気に掛けていたのなら。僕が神姫バトルに手を出さなかったら。イシュタルは普通の神姫だっただろう。誰にも愛されなかったことが成長に繋がるなんて悲しい話ではあるけれど。 まぁ、確証は何処にもないし、確証も無しに「愛がAIを成長させた!」なんて二重の意味で恥ずかしいから言わない。 「僕が「アルテミス・システム」を研究してるのは合ってます。実際にはまだ「調べている」程度なんですけどね。ファーストランカーとはいえ僕は中学生ですから」 「君なら「アルテミスシステム」は危険性を知っているだろう。それを一体、何に使おうとしているんだ」 「危険な道を通らないと僕の夢は叶いません。店長、僕はですね、イシュタルを超える神姫を造りたいんです」 「何故だ。まさか本気で世界征服でも企んでいるのか」 「意味なんてありませんよ。これは儀式みたいなものですから」 今でも僕にとってイシュタルは理想の神姫だ。強くて優しくてカッコ良くて可愛い最高の神姫。小さい頃はイシュタルさえいれば何でも出来ると思っていた。 けれど中学に上がってそれじゃ駄目なんだと思うようになってきた。イシュタルに頼ってばかりじゃ僕は腐っていく。イシュタルが居なくても僕は生きていけるようになれなければならない。その証明として僕は自分の中で輝くイシュタルを壊す事を決めた。 その為に今度は僕自身の手で零からイシュタルを超える神姫を作る。それが僕の夢だ。「アルテミス・システム」はあくまでその手段に過ぎない。 「でも、僕には必要なことなんです。僕は僕が僕である為に、イシュタルを殺す」 「君はイシュタルを憎んでいるんじゃないか」 「憎んでますよ。でもそれと同じくらい愛してます」 「愛しさ余って憎さ百倍、って奴?」 「愛と憎悪は表裏です」 「…俺には訳が分からない」 「僕とイシュタルの関係自体が異常ですからねー」 そんなに居ないと思う。神姫を実の母親のように想ってるオーナーなんて。 言いたい事は言い終えたから話を元に戻そう。殺人事件の犯人も、イシュタルの真骨頂も、電子生命体の存在も、結局のところ僕が本当の事を話さない限り全て物的証拠の無い妄想に過ぎない。日暮店長には悪いけど僕は拷問されても吐くつもりはないし自白剤対策もバッチリしている。 一番手っ取り早い証明方法はイシュタルのバックアップを見つけ出す事なんだろうけどそれは絶対に誰にも見つけることは出来ないという自信があった。 「というわけで僕は何も知りません。イシュタルも、ちょっと強いだけの普通の神姫ですよ」 「恐らくイシュタルは他にも人を殺している。それを君は見逃しているのか?」 「…悪いとは思ってるんですよ、一応」 これは本心だ。人を殺す事は悪い事だって思ってる。だから出来るだけイシュタルに殺しはさせないようにしているし、神姫であれば見ず知らずの相手でも助けるようにしている。それにイシュタルだって敵は必ず殺すけど敵しか殺さないように決めているらしいから誰彼構わず殺しているわけじゃない。 日暮店長は複雑そうな顔をし始めた。僕に対して強く出るべきか見逃すべきかを悩んでいるんだろうけど、やがて僕を告発した時の様に大きく深呼吸した。 「分かった。なら俺から話す事は無い。そもそも君には何の疑いも掛けられていないからな。…済まないな、俺の妄想に付き合わせてしまって」 「いえいえ、僕も楽しめましたから」 「君達も一応は幸せに暮らす神姫とそのオーナーだ。それを壊すような真似を終えはしたくない」 「僕も同じです。もしも不幸な人を見掛けたら出来れば救ってあげたいと願ってます」 「だが君達にムルメルティアは預けられない。…俺を意地悪だと思うか?」 「またいつかの借りってことで」 日暮店長の妄想は終わった。ムルメルティアを手に入れられなかったのは残念だけど見逃して貰えただけでも良しとしよう。ちょっと後味の悪い雰囲気のまま修理室から店にまで戻るとエプロンドレスを脱いだイシュタルが迎えてくれた。 「話は終わったのか?」 そう言えばイシュタルにこの言葉を使うのも久し振りだなぁ、なんてしみじみしつつ、 「おかえり、イシュタル」 「ただいま、マスター」 いつかちゃんと「さよなら」が言える日が来るといいなぁなんて思った。
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触手と美咲さん こんにちは。フブキタイプの美咲です。主である先生の神姫をさせていただいています。 今日も今日とて、広大なテーブルの上を手磨きで磨いております。このテーブルは本当に広く、バトルフィールドとして使用できそうなほどです。バトルフィールド・テーブル。……響きがもう不人気確定ですね。 このテーブル、実はそれほど汚れていませんし、毎日磨くほど汚れもしないのです。それでも私が磨くのは、私が起動したての時に先生に『私にお手伝いできることはありますか?』と聞くと『いいえ、何も。あなたは何もしなくても大丈夫ですよ、美咲さん』と言われたのです。その時、私は、主である先生のお役に立つことのできない不甲斐ない駄目神姫なのだと絶望すると、『そ、そんなに落ち込まないでください! ……そ、そうだ、このテーブル、このテーブルを磨いてください! それはもう、顔が写るが如くピカピカに!』といった具合で、先生から初めて仰せ付けられたご命令なんです。 あの時は、先生が私に求めるものが何なのかまだ理解しておらず、とにかく役に立たなくてはと必死だったのです。今では『何もしなくていい』と言われたらお言い付け通りきちんと何もせず待機できます。 ……何もしないのに、きちんと、というのはおかしいですね。 「みっさっきっさぁーん♪」 どうやら、先生がご帰宅なされたようです。 「はい、何のご用でしょうか」 「本日もまた、美咲さんの為に仕事時間を削って新たなる装備を開発いたしました!」 仕事時間は削らないでください。いや、先生のなさるお仕事に特定の拘束時間がないのは重々承知なのですが、少しは会社側の事も慮ってあげてください。 「それは、どんな装備なのですか?」 ちょっとドキドキしながら、先生に尋ねます。私のため、という言葉に胸が高鳴ります。 「はい。この装備、その名は『怪しい触手EX』!」 私の胸の高鳴りを返してください。 先生の手の中には、うねうねと怪しくうねる物体。あれを装備と呼んでいいのでしょうか。装着されてないのにあんなに動いています。おかしいです。 というか、触手って……やらしいイメージしかないじゃないですか! 「それをまさか、私に装備しろと?」 「はい、そうですが」 「慎んでお断り申し上げます」 いくら先生の頼みとはいえ、あんな怪しさ満載っぽい装備を着けるなんて、無理です。あ、名前に既に怪しいってついてました。 すると、先生は私の手を取り、真摯な表情をしました。 「この装備は、美咲さんの戦闘データや行動パターン等を参照して、美咲さんの動きにこと細やかに対応します。ですから、逆にいえば美咲さんにしかフィットしない、美咲さん専用装備なのです。扱いは少々難しいかも知れませんが、美咲さんなら使いこなせると信じていますよ……」 「先生……」 で、結局装備してしまう私を、誰が責められましょうか。だって、『信じていますよ』なんて囁かれるように言われたら、是も非もないじゃないですか。それとも、私が軽い女なだけなのですか? まあ、装備するだけなら、まだいいと言えましょう。ですが状況はさらに悪いです。先生に言われるまま流されるまま、気が付けば行き付けの神姫センター。先生はこの神姫センターではかなりの有名人なので、自然と視線が集まります。 「おいみろよあのフブキ。触手リアルwwwキモwww」「さすが先生wwwやる事パネェwww」「うわぁ、動いてる……」「触手フブキハァハァ……」「あの触手でセルフ触手プレイですねわかります」 ……先生、帰りましょう。 「さて、対戦相手を探しましょう」 「やるんですか! この装備で!」 「もちろんです。でなければわざわざ神姫センターに足を運ぶこともありませんよ、美咲さん」 確かに、新装備といえばイコールで対戦というのが今までの流れでしたが、まさかこんな武装とはとても呼びたくないイロモノな代物でもバトルすることになるとは思いませんでした。 「触手ですと!? そう聞いては黙っていられませんですね!」 シュバッ! と、私たちのいる待ち合い席に神姫が一体やってきました。その子はマリーセレスタイプです。 「この地区一の触手使い、マリーセレスのステルヴィアがお相手致すですの!」 ババーン、といった感じで、ステルヴィアさんは高らかに宣言します。その腰には、恐らくカスタム品と思われる、通常のマリーセレスタイプのよりも長い触手がうねうねしてます。正直怖いです。 「というわけで、お相手お願いします先生。あ、僕はカシワギ・ケイゴと申します。どうも初めまして」 「おや、これはこれはどうもご丁寧に」 先生とケイゴさん(ぽっちゃり系)が固く握手をし、私たちはポットへ運び込まれていきます。 「では、いつもの如く、試合開始直前になってからの装備説明をさせていただきます」 「もう少し事前に、できれば自宅にいる時点でしていただきたいです」 しれっと言い放つ先生に、私もしれっと返します。ですが無視された模様。 「今回の装備であるこの『怪しい触手EX』ですが、なんと美咲さんの意志にあわせて動いてくれるという、画期的な装備なのです」 「……画期的? 意志に合わせて動くというなら、プチマスィーンズもそうなのではないでしょうか」 私が言うと、先生は指を左右に振ります。 「いいえ、あれらとは一線を画します。美咲さんの意識、無意識、思考パターン、防衛本能等々、とにかく美咲さんの脳内を忠実に反映致します」 「え゛」 はっ、と振り返ると、ホウキを持って掃き掃除する触手、雑巾で拭き掃除をする触手、神姫センターの出口に向おうとする触手、先生にハートを飛ばす触手等、確かに私の頭の中をトレースしている。 「犬の尻尾の触手バージョンですね」 「タチが悪すぎます! 私の思考がダダ漏れじゃないですか!」 先生にハートを飛ばす触手を恥ずかしさから必死に絞り上げますが、一向に堪える様子がありません。く、所詮パーツと言うわけですか。 「でもそれなら、私じゃなくても操作可能じゃないですか?」 ハートを飛ばす触手を玉結びにしますが、自動的にシュルシュル解けていきます。忌々しい! 「いえいえ。普通の神姫であれば、自分の意識、無意識を制御できずに暴走してしまいますよ。この装備は、自我を、アイデンティティーというものを確率した神姫でなければ制御できません」 「……つまり、どういうことですか?」 先生の言ってることはいまいち要領を得ません。自我やアイデンティティーなら、私だけでなく、どんな神姫も持っているはずです。 「では、簡単に一つ聞きましょう。“あなたは何ですか?”」 先生の質問に、思わず小首を傾げてしまいます。私に追随して二本の触手もくいっと曲がります。 「それは……難しい質問ですね」 自分が何なのか。どの観点から答えればよいのか。武装神姫の中での何かであるなら、私はフブキタイプであると答えられます。私単体としての何なのかであるなら、主である先生の神姫、美咲と名乗れます。ですが、そういう限定的な条件無しの、そう、この世界に存在する存在としての何なのか、と問われているとしたら……私は、どう答えればよいのか。 ……自分でも何を言ってるのか、わからなくなってきました。 「まあ、そういう事なのです」 先生のお言葉に、意識が現実に引き戻されます。と同時に、触手も再び活動を始めました。触手達もどうやら私と一緒に深い思考に陥っていたらしく、一切の動きを停止していたようです。 「……やはり、わかりません。どういうことですか?」 「ま、小難しい話は後にしましょう。今はレッツバトルです!」 誤魔化すように先生は笑い、私をポットに収めます。 「フッフッフ、いよいよ来ましたですの。私とあなた、どちらがより優れた触手使いであるか、今ここで決着をつけるですの」 「いや、私は別に優れてなくていいです」 ステルヴィアさんの言葉に即否定の返事を返します。 「フフフ、とても謙虚なのですの。ですが、私には見えますの。あなたの中に眠る、触手への限りなき欲求が、潤うことのない渇望が!」 「どこにそんなものが見えてるんですか……」 私の触手も……いえ、私のなんかでは決してないですが仕方なく装備している触手も、私に同調してうんざり気味に左右に揺れました。 危ない……危うく触手を自分のものとして認めてしまうところでした……。 「ウフフ……わかっていますの。あなたも早く戦いたいのですね。長々と失礼いたしましたですの」 「何も分かってないじゃないですか!」 「まいりますの!」 こちらの意志や発言を完全無視して、ステルヴィアさんは動き始めた。通常より長い触手パーツはどうやら足の役目もあるらしく。物凄い複雑な動きで素早い移動をこなします。よく絡みませんね。そこはやはり、地区一という実績の裏付けなのでしょう。 「って呑気にしてる場合じゃない!」 私は取り敢えず、手近な障害物に身を隠します。地区一の使い手相手に真正面から挑むほど、私は自信家ではありません。 あ、失礼いたしました。今バトルしているフィールドは、遺跡〔砂漠〕です。砂漠の中に、朽ちた遺跡が建っているだけのフィールドです。 「隠れても、無駄ですの!」 ステルヴィアさんは物凄い早さで平行移動。すぐに障害物の裏に周り込んできました。が、予測済みです。私の触手が、ステルヴィアさんの足下から迫ります。 ……ハッ、私の“仕方なく嫌々装備している腰パーツにくっついている触手”が、です。決して、決っっっして私のではありません! 「フフ、無駄ですの」 なんと、下から迫る触手が、ステルヴィアさんの触手に踏みつけられて阻止されました。このままでは釘付けにされてしまうのは確実なので、すぐさま踏まれた触手を本体から分離し、迫るステルヴィアさんから距離をとります。 「逃がしませんですの!」 シュルシュル、と、こちらの触手とは違う、機械的シルエットの触手が全て伸びてきます。私も対抗して触手を伸ばし、絡め取ります。奇しくも、触手対触手の真っ向勝負となりました。 「く、や、やりますの……」 「あのー、なんだか凄い接戦に見える最中に申し訳ないんですが……」 「な、なんですの!」 全ての触手を伸ばしきり、凄い形相で力勝負をしているステルヴィアさんに一言。 「私、まだ触手余ってます」 シュルシュル、と、ステルヴィアさんの触手を絡めている触手とは別の触手をステルヴィアさんに見せます。あ、青ざめた。 「な、なんてことですの! 数の差で勝負が決してしまうなんて……やはり、戦争は数だったですの……」 というわけで、全ての触手を絡め取られて抵抗できないステルヴィアさんを、私の触手で絡め取ります。 ……否! 私が“仕方なく嫌々装備している腰パーツにくっついている触手”が、です! 決して、断じて、私自身の触手ではありませんし、私が望んで装備した触手でもありません! 「くっ……ですの」 「勝負は決しました。大人しく降伏してください」 「……何をおっしゃるですの? なぜ、私が降伏しなければならないですの?」 「へ?」 な、何なんですかこのステルヴィアさんの余裕発言。まさか、まだ隠しダマが!? ゆ、油断できない相手です! 「触手勝負に置いての敗北とは、相手の触手によって高ぶらされてオーガズムに達した瞬間と、古より伝えられているですの」 「……は?」 ……言ってる意味を理解できない。いや、個人的意志で理解したくないです。 なんか、筐体を囲む人々から「触手・プレイ! 触手・プレイ!」なんてコールすら聞こえてきます。ケイゴさんに至っては、高性能そうなカメラを構えて鼻息を荒げています。 ……先生! 助け船を是非! 「美咲さん、あなたの超絶テクの見せ所です! さあ、皆さんのご期待に沿えてみせましょうぞ!」 先生!? 「さ、さぁ、はやく、めくるめく快楽と官能の世界へ、私を連れていってですの!」 ステルヴィアさんもなんでそんな艶っぽい表情と潤んだ瞳でこっちを見てるんですか!? ……な、なんなんですかこの異様な雰囲気は。まるで常識的な私が非常識のような、イレギュラーのような、そんな雰囲気は。もしかして、周りの皆さんのほうが正常で、私が異端なのでしょうか。 ……そうですか、私が異端なのですか。ならば、正常化を計らなければ……ふ、ふふ……あはは。アハハハ。アハハハハハハ! アハハハノ\ノ\ノ\ノ\!! 「あ、そんな、いきなり激しっ! だめ、そんなとこ、深い、深いですのぉぉぉ♪」 私が次に正常に戻ったときには、身体中をあらゆる液体やグリスで濡らしたステルヴィアさんと、勝者を告げるジャッジが私の名を宣告していました。ギャラリーの興奮も最高潮のようです。私が正気を失っている間になにが起きたのか……考えたくもありません。 まあ、前後の記憶と状況からナニがあったというのは想像できますが……。 「お見事です、美咲さん。あなたの触手使い、実に見事でした」 「こんなにも誉め言葉が嬉しくないという状況も珍しいですね」 ああ、もう嫌だこんなの……。 ポットから出て開口一番、先生は私をお褒めくださいましたが、ちぃっとも嬉しくありませんでした。何故でしょう。触手の所為です。 「……参りましたですの。今回は私の完敗ですの」 私たちのいるブースに、ステルヴィアさん達がやってきました。ステルヴィアさんは触手を器用に使い、私の目の前に降り立ち、ひしっと私の手を握ってきました。 「美咲さん……あなたこそ、この地区一の触手使いに相応しいですの! 私が認めるですの!」 「いや、いりませんそんなお墨付き」 迷惑極まりありません。 「そうですの……なら、仕方ありません」 そう言って、ステルヴィアさんは私から離れます。どうやら、やっと私の気持ちに気付いてくれたようです。 「地区一では足りないと言うわけですのね! では、そう、あなたは今日から触手使いの中の触手使い、『触手マイスター』を名乗るといいですの! それだけの実力を、あなたは私に示したですの!」 ……訂正、気付いていませんでした。 「いりません!」 「まあまあ美咲さん、せっかくくれると言うのですよ。貰っておきましょう」 「断じていりません!」 「タダですよタダ」 「いくらタダでも、後から高くつくようなものはいりませんから!」 そして先生、なぜそんな二つ名をプッシュするんですか! イヤですよ触手マイスターなんて! 『触手マイスター』美咲。イヤすぎます!! なんか、私の名前まで卑猥に見えてくるじゃないですか! 「触手マイスター殿、気に入っていただけたようですの」 「まったく真逆の感情をこれでもかと表に出しているのに、なぜそんな答えがでたんですか!?」 「いいではありませんか、『触手マイスター』美咲さん」 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 結局、私の自害寸前の説得(「触手マイスターと呼ばれるくらいなら死にます」「すみませんでした美咲さん! ですからその刃をお納めください!」なやり取り)によって、何とか変な二つ名は付きませんでしたが、ステルヴィアさんからは「触手マイスター殿」と呼ばれるようになってしまいました。 あ、触手ならその場で焼却処分いたしました。 「ところで先生、結局、バトル前に言っていた、神姫の自我とは何なのですか?」 「ん、ああ、そういえばそんな話をしてましたね」 忘れていたようです。今は帰宅途中の車内。助手席から先生を見上げます。 「バトル前、美咲さんに問いかけましたよね。「あなたは何か」と」 「はい」 私は結局、その問いには答えられなかった。今も、だ。 「私はですね、思うんですよ。その問いに答えられなくなった神姫こそが、自己を確率し、人のような自我を、アイデンティティーを手に入れた神姫ではないか、とね」 やはり、先生のおっしゃることはよくわかりません。自分が何かがわからない状態が、なぜ個人として成り立つのでしょうか。 「神姫は人によって製造され、この世に誕生します。それによって、神姫は一定の知性を最初から備えているのです」 「はい」 なんだか違う話を始めたような気がしますが、聞きに徹します。 「であるからにして、目覚めたばかりの神姫に「あなたは何か」と聞いても「武装神姫である」としか返りません」 確かにそうです。自分が何か、と聞かれたら、デフォルトの記憶の中から、自分が武装神姫であるというデータを引き出し、相手に答えます。それが、普通の神姫です。 「ですが今日、美咲さんに同じ質問をしたら、「難しい」と答えました」 「はい、確かに」 そう、普通なら武装神姫ですと答えればよいものを、私は迷いました。確かに武装神姫ではありますが、それだけではありません。先生の神姫であるし、美咲という、私だけの名もあります。ですから、何か、と聞かれても、それがどの答えを求めての問いなのか、わかりません。 また逆も然り。私が何か。それに対しても明確な答えが出せません。武装神姫というのも、先生の神姫であるということも、美咲という名前も、すべて後付けのような気がします。自分というものは何なのか。考えれば考えるほど輪郭がぼやけていき、やがては、自分は本当に武装神姫なのか、という、馬鹿げた考えに至ります。それはつまり、確固たる“個”を無くしているということではないでしょうか。 「……やはり私にはわかりません。なぜ答えられないのが、アイデンティティーの確立なのですか?」 「武装神姫が、自分は武装神姫の何タイプであると言うのは、確かに全と個を分けた考え方でしょう。しかし、明確に個を答えられるのは、それが“個”であると教え込まれているからです。そして、その“個”は“全”に所属する全ての個体に教え込まれています。 “全”に与えられた“個”……これは結局、“全”ではないでしょうか」 ……。やはり、先生のお言葉は、矮小な私では理解できません。 「完全なる“個”、すなわち自我、アイデンティティーとは、“全”から教えられたものではなく、それに対して何らかの懐疑的な思考を行う事、あるいはその過程ではないかと私は思います」 ですが、先生の言わんとしていることはなんとなくですが、わかります。 「つまり、全と個をはっきり隔てることがアイデンティティーではなく、全と個を隔てようと思考する事がアイデンティティーだ、ということですか」 「……さぁ?」 盛大にずっこけました。さぁって……。 「あくまで私の考えがそうである、という話です。もしかすると、起動したての神姫のように、自信をもって自分を語れる者こそがアイデンティティーを持っているのかもしれない。いや、そもそも、アイデンティティーというもの自体……」 途端にブツブツと、私にすら聞き取れない程度の言葉で呟き始める。あれは多分そう、思考のスパイラル。自己を考えた私と同じく、自身の思考をさらに思考し、それすらも思考する。永遠に終わりのない思考の連鎖。今、先生はそこにいる。 「先生っ!」 「……あ、おお、すみません。少し考え事を……いや、あー……」 そう呟いた次の瞬間、先生は伸びをして首を鳴らしました。 「いやー、考えても答えなんて出ませんね。そんな非効率的で時間の浪費以外の何者でもない行為、やめてしまいましょう!」 ニコ、と私に向き笑いかけてくれる。ですが今、私たちはそれどころではないと先生は気付いているのでしょうか。 「それもよろしいですが前、前ぇぇぇぇ!」 「ん? うをぉぉぉ!?」 先生の車は、華麗なドリフトターンを決め、無事ガードレールとの接触を避けました。 今度から運転中には話し掛けないよう、心掛けます……。
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第1部 戦闘機型MMS「飛鳥」の航跡 第7話 「轟兎」 ガチャガチャと武装をカチ鳴らせながら、何十体かの完全武装の武装神姫たちが砂地を歩く。 チーム名 「定期便撃沈チーム」 □犬型MMS 「クレオ」 Bクラス オーナー名「池田 勇人」♂ 22歳 職業 商社営業マン □天使型MMS 「ランジェ」 Aクラス オーナー名「大村 清一」♂ 25歳 職業 SE □イルカ型MMS 「ルーティ」 Bクラス オーナー名「川崎 克」♂ 19歳 職業 大学生 □エレキギター型MMS 「トリス」 Bクラス オーナー名「島本 雅」♀ 21歳 職業 フリーカメラマン □ヘルハウンド型MMS 「バトラ」 Bクラス オーナー名「合田 和仁」♂ 15歳 職業 高校生 □戦乙女型MMS 「オードリ」 Sクラス 二つ名 「聖白騎士」 オーナー名「斉藤 創」♂ 15歳 職業 高校生 □忍者型MMS 「シオン」 Aクラス オーナー名「佐藤 信二」♂ 19歳 職業 専門学校生 □サンタ型MMS 「エリザ」 Bクラス オーナー名「橋本 真由」♀ 17歳 職業 高校生 □騎士型MMS 「ライラ」 Aクラス オーナー名「橘田 和子」♀ 16歳 職業 高校生 □マニューバトライク型MMS 「ミシェル」 Sクラス 二つ名 「パワーアーム」 オーナー名「内野 千春」♀ 21歳 職業 大学生 □天使コマンド型MMS 「ミオン」 Bクラス オーナー名「秋山 紀子」♀ 16歳 職業 高校生 □フェレット型MMS 「スズカ」 Bクラス オーナー名「秋山 浩太」♂ 19歳 職業 専門学校生 □ウサギ型MMS 「アティス」 Sクラス 二つ名 「シュペルラビット」 オーナー名「野中 一平」♂ 20歳 職業 大学生 □蝶型MMS 「パンナ」 Bクラス オーナー名「田中 健介」♂ 19歳 職業 高校生 □剣士型MMS 「ルナ」 Aクラス オーナー名「吉田 重行」♂ 28歳 職業 電気整備師 □ハイスピードトライク型 「アキミス」 Bクラス オーナー名「狭山 健太」♂ 19歳 職業 大学生 松本「けっこう集まったな」 ヴァリアのオーナの松本は満足そうな顔をする。 大村がけげんな顔をする。 大村「相手は重装甲戦艦型神姫だって?大丈夫かな?」 ランジェがつぶやく。 ランジェ「やってみなければわからないでしょう・・・これだけ神姫が揃っているんです。負けることはないですが・・・相手も襲撃は予想しているはず、まともに戦うと、ものすごい損害が出ますよ」 忍者型のシオンが首をかしげる。 シオン「戦艦型神姫ってそんなに強いのですか?私は戦ったことがないので分かりません」 ルナ「私もないですね」 パンナ「私もだけど?」 アミキス「・・・・・・ちょっと、この中で戦艦型神姫と戦ったことある人」 誰も手を上げない。 スズカ「ネットの動画や画像で見たことあるけど、実際には戦ったことないです」 エリザ「大丈夫大丈夫ーたった1機でしょ?」 ライラ「大丈夫だよね?マスター?」 ライラの問いに橘田は一瞬、目をそらしそして、にっこりと笑った。 橘田「大丈夫、みんなでがんばれば勝てるよ」 ライラ「そうか!!わかった!!頑張るね!マスター」 橘田「・・・・・・・」 マスターが神姫に嘘をつく。 橘田は戦艦型神姫の恐ろしさ、強さを知っている。本当のことを言わない。 なぜか? 答えは簡単。神姫がびびるから・・・弱った戦艦型神姫、1隻、数十体の神姫で取り囲んで集中砲火を浴びせれば倒せないことはない、ただ、こちらもそれ相応の被害はこうむる。 橘田は、多少の損害はやむを得ず、何も知らない無垢な神姫たちに戦わせることにしたのだ。 バトラ「戦艦型神姫かー図体ばかりでかいだけの神姫だろ?」 ミシェル「・・・・どうでしょうか?とにかくあの強力な大砲の攻撃を回避しないと・・・」 オードリ「大丈夫です!動けないのでありましょう?問題ないです」 武装神姫たちはまったく何の警戒もせずにスーザンに近づいていった。 スーザンがレーダーで数十体の神姫が接近してくることを察知する。 スーザン「敵神姫接近中!なんだ?こいつら素人か?まっすぐこっちに来るぞ」 西野「連中、もう勝った気でいやがる」 スーザン「そうらしいですね・・・では、教育してやるか!」 西野「戦闘用意っ!!照準はこちらに任せろ、予測射撃だ!!」 スーザンの主砲が鈍い音を立てて旋回する。 西野「2連装ヘヴィ・ターボレーザー砲、出力70%!残りは電磁シールドに廻せ」 スーザン「復唱、2連装ヘヴィ・ターボレーザー砲、出力70%!残りは電磁シールドに廻します」 西野「VLSスタンダートミサイル発射用意ッー目標はこことここだ」 西野が筐体のタッチパネルを押して座標を指示する。 スーザン「装填よし」 西野「派手にいこうぜ、スーザン・・・・・・目標、敵MMS集団ッ!!主砲3斉射ッ!!!ファイヤッ!!!!」 スーザン「ファイヤッ!!!」 ズドズドム ズドドム ズドゴンッ!! ヘヴィ・ターボレーザー砲が轟音を轟かせ主砲から吹き上がる青白い発砲炎が灰色の巨体を鮮やかに浮かび上がらす。 ルーティ「んー?」 チカチカッと水平線の向こうから何かが光った。 川崎「どうした?ルーテ・・・・」 亜光速で放たれた強烈なレーザーキャノンの光が神姫たちを青白く照らす。 なぜ青白く光るのか理解できなかった。 光のほうがさきに届き、強力なレーザー本体が後から少し遅れて届くことを知ったのは、しこたま砲撃を喰らったあとだった。 クレオは眼を見開いた。 今まで喰らった一番強力な攻撃は天使型神姫 アーンヴァルのGEモデルLC3レーザーライフルの必殺攻撃「ハイパーブラスト」だった でも今、クレオの全身を青く照らしているこの光は「ハイパーブラスト」の数倍強い光で、しかも周りにいるみんな全員が青い光で包まれている。 このことの意味がどういうことか?理解は出来たが体が動かない 恐怖で動かすことが出来ないのだ 開いた口がふさがらない。 ドッガーーーン!!キュドン!!ズドッドドム!!ボッガアアーーーン!! 神姫たちの頭上に鉄槌のごとく降り注ぐ強力なレーザーの炸裂と周辺に巻き上がる青い灼熱の炎が容赦なく襲う。 トリス「うああ!!せ、戦艦型神姫の艦砲射撃だあ!!!」 佐藤「ど、どこから撃ってきているんだ!?」 大村「ランジェ!!何をしている反撃だ!!撃ち返せ!!」 キュウウウン ドンドゴオオッム!!! 突然の強力なレーザー砲撃に神姫たちはパニック状態に陥り、逃げ惑う。 ランジェ「むちゃくちゃ言わないで!!こんな状況で反撃でき・・・あ!!!」 ゾドッムゴーーーン!!!ドドム!!! ルーティがいる辺り一面は青い炎で埋め尽くされていた。 スーザンの主砲の直撃を食らって、バラバラに吹き飛ばされるルーティ。 □イルカ型MMS 「ルーティ」Bクラス 撃破 テロップが画面に踊る。 大村「うわああああああああああ!!ルーティ!!」 ぼとぼとと焼き焦げたルーティの残骸がバトラの上に降り注ぐ。 バトラ「ヒイイイイ!!」 スズカの顔面にルーティの粉々になった頭部がボトリと堕ちる。 「う・・・うえええ・・オエエエエ」 スズカは気分が悪くなりうずくまって嘔吐した。 島本「散開しろ!!一箇所にまとまっていると危険だ!!! 橋本「だ、駄目!離れ離れになると各個撃破される!!」 ライラ「わあああああ!!」 パニックに陥り、逃げ惑う神姫たち。 スーザン「命中!!命中!!」 西野「黒煙だ・・・命中したな・・・相手の神姫は即死かな?」 スーザン「連続射撃により砲身温度上昇中」 西野「交互撃ちに変更。撃て」 スーザン「ファイヤー!!!」 ズッズウウン 青白い噴煙が放出され強力なレーザーが発射される。発射された強力なレーザーはまっすぐ一直線に伸びていき神姫たちの集団のド真ん中に着弾 周辺にいた神姫を爆風で吹き飛ばす。 ドドム、ズヅッヅウーーン バウム スーザンは砲撃をまったく休めない。遠距離から強烈なレーザー砲撃を行い続ける。 レーザー管制とマスターからの的確な砲撃指示でメッタ撃ちにする。 これが多数の強力な火砲を有する戦艦型神姫の戦い方である。 そんな戦艦型神姫に何の策もなく、真正面から戦うことは自殺行為に近い。 アティス「みんな回避してください!!直撃を食らうと一撃で粉々に撃ち砕かれます!」 アティスは機動性に優れたウサギ型神姫だ。持ち前のフットワークで巧みに砲撃を回避する。 スーザン「!?何機か砲撃をすり抜けてきます!」 バッと砂埃を立てて、砲撃を掻い潜って数機の神姫がスーザンに急接近する。 戦乙女型MMS「オードリ」とサンタ型MMS「エリザ」マニューバトライク型MMS「ミシェル」ハイスピードトライク型 「アキミス」はジグザグに動き回って砲撃をよける。 エリザ「はははーこんなのおちゃのこさいさいだよ!」 オードリ「接近して取り付けば、あの図体です。なにも出来ません!!」 スーザン「ッチ!!接近されるとまずいな・・」 西野「VLSスタンダートミサイル発射、迎撃しろ」 スーザン「VLSスタンダートミサイル発射ッ!!!!!!」 ドシュドシュウオオオンン・・・・ 垂直にスーザンの右舷と左舷から中型のミサイルが8発、発射される。 狭山 「ミサイルッ!?アキミス!!回避しろ!」 アキミス「こなくそ!!」 アキミスはトライクモードになり、ミサイルを急旋回で回避する。 エリザは急上昇して回避。他の神姫たちも散りじりになって回避する。 スーザン「ミサイル、全弾不発!!」 西野「!!スーザン!!後方より敵神姫!!」 スーザンの後ろに回り込んだ忍者型MMS「シオン」が鎌をトマホークの様に投げつけた。 シオン「はああ!!」 西野「副砲放て」 鋭く命令しながらピッと手を振る西野。 ズズズンッ!! スーザンの後部ブロックにある2連装ターボレーザー・キャノンが1門、火を放つと同時にシオンの放った鎌を打ち落とす。 シオンはものともせず、バッとスーザンに飛び掛る。 シオン「取り付いてしまえば!!その砲塔は自分に向けて撃てまい!!」 佐藤はハッとスーザンの武装に気が付く。 佐藤「よせええ!!!シオン!!!そいつはSマイン付きだ!」 スーザンは後部からポオオンと小さな筒状の物体を打ち上げる。 シオン「え・・・・」 スーザン「バカめッ蜂の巣にしてやる」 S-マイン(S-mine,Schrapnellmine:榴散弾地雷)とは100年前に第二次世界大戦でドイツ軍が使用していた対人地雷の一つを神姫サイズにした武装である。 爆薬により空中へ飛び出して炸裂する、跳躍地雷(空中炸裂型地雷)の一種で、爆発すると320~350個の極小鉄球を半径約1mの範囲に高速度で飛散させることによって軽量級の神姫を殺傷する。 鈍重な戦艦型神姫は肉薄された神姫に、このような古典的な近接防御兵器で対抗した。 ドジャーーーン!!パンパッパパアン・・・ シオンの体を無数の極小の鉄球(ボールペン球)がつら抜いた。 至近距離でまともに喰らったシオンは蓮花弁のように小さなブツブツの穴だらけになってそのままピクリとも動かずに醜い屍を晒した。 □忍者型MMS 「シオン」 Aクラス 撃破 佐藤「シオンッ!!!うわああ!!」 佐藤はボロ雑巾のようになったシオンを見て絶叫する。 ぐちゃぐちゃになったシオンの残骸を見てエリザの顔から笑みが消えた。 エリザ「あ・・・いやあ・・・あああ・・」 橋本「エリザ!!!動け!!止まるな!!あ・・・」 スーザンの副砲がエリザをぴったりと照準につける。 副砲とは軍艦の備える大砲の一。主砲の補助として使用する中・小口径のもの。 ただし主砲に劣るとはいっても巨大な戦艦型神姫の副砲の威力は並みの神姫ですら、一発で粉砕するほどの口威力を有する。 スーザンは主砲の全砲門を、主力の神姫部隊に向けて砲撃し続けて、周りをうろちょろ飛び回る神姫を追い払ったり撃破するために副砲を持っていた。 西野「右舷にいるあのマヌケなツガルを叩き落せ。 スーザン「了解」 ズドオン!! エリザに向かって一直線に向かっていくレーザー弾。 マニューバトライク型MMS 「ミシェル」が叫ぶ。 ミシェル「エリザ!!」 ぐりっと強化アームでエリザの足を掴み、引き寄せる。 ズバッババンン!! 間一髪、エリザのいたところにレーザーが着弾しエリザは一命を取り留める。 ボーと口を半開きにしたまま、固まるエリザ。 ミシェル「エリザ!!!しっかりしなさい」 内野「あー、こりゃシェルショック状態に入っているわね」 ミシェル「シェルショック!?」 内野「砲弾神経症よ、友人たちの手足が一瞬にして吹き千切れるのを見、閉じ込められ孤立無援状態におかれたり、一瞬にして吹き飛ばされ殺されるという恐怖から気を緩める暇もないという状況で、感情が麻痺し、無言、無反応になるのよ」 ミシェル「・・・・・・詳しいんですね、オーナー・・・」 内野「まあ、戦艦型神姫と初めて戦った神姫はみんなこうなるわね」 ミシェル「・・・・・・・黙っていたんですね・・戦艦型神姫が強いってことを・・・」 内野は肩をすくめる。 内野「だって、戦艦型神姫がめちゃくちゃ強いっていったら、あんたたちビビって逃げるでしょう?」 にやーーーと冷たく笑う内野。 エリザ「あ・・・ああ・・・あうあうあ・・・」 ミシェルはぎゅっとエリザを抱きしめる。 ミシェル「私たちは逃げたりなんかしない!!」 凛と言い放つミシェル。 ズドドドドオン!! スーザンの主砲を喰らってバラバラに砕かれる犬型神姫。 □犬型MMS 「クレオ」 Bクラス 撃破 ミシェル「クレオが!!」 スーザン「命中!!命中!!」 西野「ふん、雑兵どもが!!あの這いつくばっている神姫を狙え、低く狙え、地面ごと抉り飛ばせ!!」 ライラはうっすらと眼を開ける。 地獄だった・・・バラバラに吹き飛ばされたルーティだったものの残骸がブスブスと音を立てて散らばり、地面は艦砲射撃で穴だらけ、さきほどの砲撃でクレオは吹き飛んで焼き焦げた何かがバラバラと地面に落ちてくる。 両足を失った天使型MMSの「ランジェ」が獣のような声で啼いている。 ランジェ「ギゃアアアアアアアアアアアアッ!あ・・・ああ・・・アアアーー・・・うあああああああああ」 バタバタと地面をのたうち回るランジェ。 それを呆然と見ているヘルハウンド型MMSの「バトラ」。半開きになった口元からは涎が垂れている。 バトラ「・・・あ・・・うあ・・・・・」 エレキギター型MMSは「トリス」は、爆風でちぎれ飛んだ自分の右腕を左手に持ってうろつく。 トリス「手が・・・手がァ・・・ああ・・・取れた・・・手が・・・」 フェレット型MMSの「スズカ」は嘔吐し続けて、地面にうずくまって動こうとしない。 スズカ「うおおおお・・おええ・・むぐ・・・おえええ」 ボチャボチャと粘質を含んだ油の塊がぶちまけられる。 その光景を見て、ライラは確信した。 自分たちは囮に使われたのだと、真正面から戦艦型神姫の強烈な艦砲射撃について何も知らされずに、ノコノコと前に出てきたのは、ミシェルたちを突破するための支援に使うための囮だってことに・・・ ライラはマスターを呼び出す。 ライラ「マスター!?マスター!!?」 橘田「どうしたのライラ?」 ライラ「・・・仲間が・・・やられました・・これ以上の戦闘は不能です」 チカチカっとまた青い光が光る。 ドズウウオオン!! 地面を抉り飛ばしてランジェがぐちゃぐちゃになって飛び散る。 □天使型MMS 「ランジェ」撃破 ライラ「・・・・・どうして、黙っていたのですか?」 橘田「大丈夫、みんなでがんばれば勝てるよっていったよね?そういうこと」 ライラ「・・・囮にしましたね」 橘田「大事なのは勝つことだから。僕に言わせれば、 勝利に犠牲はつきものですよ。ってテニプリの聖ルドルフ 観月さまも言ってるよーライラも賛同していたじゃない」 ライラははっと思いだす。 そういえばそんなことを橘田と一緒にテレビのアニメで見ていたような気が・・・ 橘田「でしょ?やっぱりさーそういうことは、実戦してみないとさーほら・・・マンガと実際は違うっていうし、行動しないとさ・・・言葉にも重みって出てこないし」 ライラは呆然と立ち尽くす。 勝利に犠牲はつきもの マンガやゲーム、映画、小説などで幾度となく使われてきた言葉。 その本当の意味を、実際に目の当たりにしたときに寒気が走った。 この言葉の意味は、・・・こういう意味だったとは・・・ スーザン「命中!」 西野「目標!!増せ一つ!次はこいつを狙え」 ライラ「・・・・・・マスター・・・」 橘田「なあに?ライラ」 スーザン「2連装ヘヴィ・ターボレーザー砲、ファイヤ!!」 チカチカっとまた青い光が走る。 ライラの顔をぼうっと怪しく照らす青い光。 ライラはなにかつぶやいたが・・・橘田はうまく聞き取ることが出来なかった。 ズズン・・・・ スーザンが目視で確認する。 西野「黒煙だ・・・命中したな」 スーザン「・・・・・・・・・敵機撃破!!」 □騎士型MMS 「ライラ」 Aクラス 撃破 To be continued・・・・・・・・ 前に戻る>・第6話 「重兎」 次に進む>・第8話 「爆兎」 トップページに戻る
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そのきゅう「たまには勝敗の無いゲームを」 「ティキ、大丈夫かな?」 「心配性だね。大丈夫だよ。オレ達の神姫だっているんだからね」 「お前は初めてかもしれないけど、俺たちは何回かやってるから、安心しろよ」 「しっ。待って、うちの子が何かを見つけたみたい」 その言葉に反応し、僕らはモニターに釘付けになる。 そこにはティキと、他三体の神姫たちの姿があった。 その日僕は、弓道部の仲間で、武装神姫のオーナー仲間でもある式部敦詞に誘われ、チョット大き目のセンターに遊びに来ていた。 式部が言うには、 『武装神姫の、バトル以外の楽しみ方を教えてやるよ』 との事。 一体何の事かまったく理解せず、僕はティキと一緒に半ば強引に式部について行った。 まずそこで僕は二人の男女を紹介される事になる。 チョット背の高い優しそうな顔立ちのお兄さんと、アーンヴァルの素体にストーラーフのコアをつけた神姫。そして眼鏡のクールな女の子とチョット珍しいフブキの神姫。 「はじめまして。オレは司馬仙太郎。君よりはチョット年上の大学生だよ。で、コッチがオレの相棒、ナイア。よろしくね」 「私は結城セツナ。高校二年生。こちらが私の海神(わだつみ)。よろしく」 で、僕はその女の子――お姉さんの名前を聞いて驚くわけだ。チロッと式部の方を見ると、ヤツはニヤニヤと笑っている。 コンチクショウ! わざとだな! 僕は腹をくくって自己紹介をする。 結城さんが僕の名前を聞いて、驚いてから、やわらかく笑った。 『カードキーの様であります』 海神がそのカードを拾いながら言っている。基本装備をほとんど持たない忍者型の海神は、忍者刀・風花に大手裏剣・白詰草、黒き翼プラス一部ヴァッフェバニーの装備で武装している。 『なるほど。それでさっきの扉を開けろというワケね』 そう言ったのは式部の神姫、ツガルのきらり。こいつは先行特別販売でGETしたツガルを事あるごとに自慢していた。きらりは基本的なツガルの武装。 『パターンだネ。もう少し凝ってくれてもイイのにネ』 ナイアはそういうとやれやれとでも言いた気にため息を吐く仕草をしている。ナイアは悪魔型フル装備に天使型のウイングユニットを無理やりつけたような、一際巨大なシルエットをしていた。 『あのあの、そういうものなのですかぁ?』 この中でティキだけがオドオドしているのがなんだか情けない。ちなみにティキはバトル用の武装。だって何やるか聞いてなかったんだから仕方ない。 『そ。こういう探索ものではありきたりの、要するにスペースを無駄にしないためだけの処置ね』 ティキとはすでに見知った仲の、きらりが答える。 『それじゃ扉まで戻る前に、一応奥まで行ってみよっか? 何も無いとは思うけど、初参加がいるからその方がいいでショ?』 その言葉にティキ以外の二体が頷いた。 今ティキ達がいるのはPC上に再現された機械遺跡。ジオラマ作成ツールを利用して作られたモジュールの一つ。そのジオラマに設定されたイベントをこなしてクリアを目指す。 本来はネットを介してやるらしいんだけど、こんな風にオーナー同士集まってやるのもまた一般的。 実際ならそれぞれのユーザーが自作するものらしいんだけど、今回使用しているのはオフィシャルなもの。それでも元は一ユーザーが作ったもので、それを調整したものらしい。 ……ジイ様に聞いたTRPGとか、母さんに聞いたMMOとか、そんなのを彷彿させる。 で、僕達オーナーはなにをするのかと言えば、神姫たちに時限式で送られる後情報を基にした指示を与えたり、一緒になって謎解きなどする事などなど。ま、中にはオーナーが一切何も出来ずに、ただ見守るだけのモジュールもあるみたいだけど。 艱難辛苦を乗り越え、ようやく最深部への扉の前に到着。 そしてここにきてオーナーに向けたテキストが現れた。 『この扉より先、オーナーの指示は神姫に届きません』 なんだよ。最後の最後で観戦モードか。 当然僕らはそれを神姫たちに伝えた。 『ふええぇぇぇぇ? 心細いのですよぉ~』 さすがにティキは不安を隠せないでいる。 しかし他の三体は慣れたもの。動じることなく扉を開ける意思を示す。 そうなるとティキにも僕にも拒否権なんてあるわけもなく、しぶしぶと同意する。 躊躇無く扉を開けるナイア。 広い空間。その空間で複数の神姫が一点を目標に攻撃してる。 『あなたたち、ここは危険よ! すぐに退避しなさい』 目標に向かってマシンガンを打ちながら、こちらを振り返る事無くそのアーンヴァルは言う。 『えっと、そう言われても……困るのですよぉ~』 『ティキちゃん、自動起動するイベントだから。なーに言っても無駄だから。ネ?』 困惑するティキに、ナイアはにこやかに答える。答えながら、臨戦態勢を整えた。 『ふぇ? え?』 何をして良いのか見当もついていないティキ。その脇では海神ときらりも攻撃の態勢を取っていた。 それに習い、ティキもレーザーライフルを構える。 四体が準備をするしないに関わらず、多くのNPC神姫がほぼ同じポイントに攻撃を続ける。 『いける?』 NPCの一体がそうつぶやいた時だった。 しゅるるるるるる あからさまな音を立てながら無数のコードが大勢いるNPC神姫たちに襲い掛かる。 『きゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!』 そのコードはまるで自我を持つかのように自在に動き、多数の神姫を一人残らず絡め取る。滑る様に神姫の肌を蹂躙し、手足の自由を奪う。 そして動けない神姫を侵す様にソケットの穴や口に侵入した。……それ以外のところにも。 『いやぁぁぁぁぁぁーーーーー!!』 『あああぁぁぁぁぁぁ!!』 コードに犯された神姫たちが悲鳴を上げた。 それをモニター上で見ていた僕は赤面した。 「……なんかこれってエッチくない?」 小声で隣に座っている式部に話す。 「同感。……女のクセになんで結城はこんなの選んだんだ」 僕と同じく小声で言った式部の言葉を受け、僕はチラリと結城さんを見る。 だが僕には眼鏡をかけたそのお姉さんの表情を図る事が出来ない。 『~~~~~~~!!!』 ティキが真っ赤に顔を染めながら左手のハンドガンで射撃を開始する。狙いはコードの一本一本。 「弾が六発しかないリボルバーで何やってんだよ~」 僕の声がティキに届かない事は自覚していたが、それでも言ってしまった。 『まだターゲットそのものが現れていません。無駄弾を消費するのは賢明では無いと忠告します』 海神が僕の代わりにティキに注意してくれた。 『どうやら大ボスのお出ましのようよ。ティキちゃん』 きらりが両腕のライフルを構える。 そこに現れたのは現行通常販売している神姫五種の首を持つ鋼鉄の大蛇。尻尾の変わりに無数のコードが生えている。その尻尾コードが、他の神姫たちを犯していた。 『……悪趣味~』 ナイアは心底嫌そうな表情で、吐き捨てるようにそう言うと、レ-ザーライフルを発射させる。 それを神姫が繋がれたままのコードで大蛇は防御。その結果、レーザーはNPC神姫を焼き、溶かす。 『ますます持って悪趣味!!』 きらりはそう言うなり、狂った様に二つのライフルを乱射させる。 だが大蛇も防戦ばかりではない。大蛇のコードがきらりの足に巻きつく。 『ひぃっ!』 巻きついたコードに嫌悪感を顕にする。 きらりに向かって更にコードが迫る。 『いやっ!!』 きらりは目を閉じた。 が、いつまでたってもきらりにコードが巻きついては来ない。 恐る恐る目を開けるきらり。そこには海神が立っていた。海神の刀が、きらりに向かってきたコードを断ち切っていた。 「なるほど。神姫の怒りと恐怖をあおる為の演出なんだ」 モニターを注視していた司馬さんが感心した様に呟く。 「いや、だとしても悪趣味なのは変わらないと思うんですが……」 「そうね。でも計算されているわ。オーナーとの連絡は届かず、敵は悪趣味。あの子達、冷静に判断できているかしら?」 僕の言葉に対し、結城さんは冷静に答える。心配じゃないのかな? と思わずにいられないくらいに、冷静。 そういう意味じゃ、とても普段の態度からは想像も出来ないくらいに我を失っている男が隣にいる。 「きらり! きらり!! 大丈夫かーーーーっ!!」 ……お前、最初に僕になんて言ったよ。 そんな間にも状況は変化しているようだ。 大蛇に犯されていた神姫たちが、攻撃に参加し始めた。 もちろん、エネミーとして。 『このままじゃ手詰まりだヨッ! 海神ちゃん、ティキちゃん。私たち援護するから、二人でアイツに接敵して!』 『任務、了解』 『ハイですぅ! レーザーライフル置いて行くですので、使って欲しいのですよぉ♪』 『ありがと。きらりちゃん、行くヨ!』 『あんな目に遭って、更にあんなのに利用されたくないもの。全力で行くわ!』 どうやら作戦が決まったらしい。それぞれ武器を改めて構える。 ティキも西洋剣をスラリと抜いた。 何の合図も無く、四体は同じタイミングで動き出す。 二本の巨大な銃口から光の筋を打ち出すナイア。 そのフォローをするように、ナイアの撃ち洩らしはきらりが両の手のライフルで粉砕させる。 縦横無尽に宙を飛び、地を駆け、時には障害になる敵を刀や大手裏剣でなぎ払い、海神は大蛇へと近づく。 ティキは、味方の援護、敵の銃弾、大蛇の尻尾のその事ごとくを超反応で避け、一足飛びで大蛇に接した。 『一つっ……ですぅ☆』 ティキは大蛇の傍らに到着するなりそう言った。そう言った後、大蛇の首の一つ、マオチャオの首が爆散する。 『ティキとおんなじ顔を、つけてて欲しくないですよぉ♪』 そう言うなりすぐにその場から移動。一拍遅れてその場にコードが叩き付けられる。 『……………………』 何も言わず、海神が大手裏剣を投げる。それはそのまま吸い込まれるようにアーンヴァルの顔がついた大蛇の首を断つと、そのまま勢いを保ち、大蛇の背後の壁に突き刺さった。 ここにきてようやく大蛇に侵された神姫たちの攻撃がティキと海神に向けられる。しかしそれらの攻撃が開始される前に、ナイアときらりが大蛇の手足となった神姫を破壊する。 すでに勝敗は決していた。 「マスタ、恐かったですよぉ~」 現実の体に意識が戻るなり、ティキは僕の頭に飛びついてきた。正確に言えば顔に向かってきたティキを心持避けたら、頭に飛び込んで来たんだけど。 僕は頭の上でじたばたしているティキに意識を向けながら、それでも三人に目を向けずにはいられなかった。僕は、自分以外の神姫オーナーを知らなすぎる。 司馬さんはナイアを肩の上に乗っけて、ナイアの健闘を称えていた。ナイアはそれに胸を張って答える。 式部は…… あー、なんて言うか、あの普段の態度は何処行ったんだか。頬ずりでもせんばかりにきらりを抱きしめて離さない。 ……正直、付き合い方を改めようかと、本気で思う。 で、結城さんは。 眼鏡の奥の瞳に優しげな光を湛え、そっと海神の頭をなでる。フブキは表情を豊かに表すことが出来ないらしいけど、海神のその顔はなんだかうれしそうで照れくさそうに見えた。 僕は頭の上でなおじたばたとしているティキを自分の掌に乗せて、 「お疲れ様」 と言う。 それにティキは満面の笑顔で答えてくれた。 終える / もどる / つづく!